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  • ソルゴーの種類とバンカー法のアブラムシ防除効果について

    ソルゴーの種類とバンカー法のアブラムシ防除効果について

    作物や花に厄介なウイルス病を伝搬(*1)してくる「アブラムシ」の防除法として、最近注目を浴びているのが「バンカー法」という天敵を用いた方法です。

    「バンカー」とは、「銀行家(Banker)」の意味で、天敵を貯蔵して害虫のアブラムシがやってきたときにそこから自在に天敵を引き出して、駆除をするという方法から名がつきました。

    天敵を用いたアブラムシ防除法は、作物を扱う農家さんにとって様々なメリットがあります。

    この記事では「天敵を用いたバンカー法のメリットと注意点」、及び「バンカー法に用いることの多いソルゴーの種類と特徴」についてご紹介いたします。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]ソルゴーって初めて聞く名前だなぁ[/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]「ソルガム」とも呼ばれることがある植物で、防風用の背丈の高いものや、バンカー法に適した益虫の付きやすいものなどがあるぞい[/chat]

    (*1)別記事「アブラムシが運ぶウイルスによって感染するモザイク病とは」をご参照ください。

    バンカー法とは?

    バンカー法 イラスト

    バンカー法についてですが、上記のイラストをご覧いただければわかりやすいでしょう。

    従来の方法では、アブラムシなどの害虫が発生したのを見つけてから、生物農薬として市販されている天敵などを作物に放していました。

    一方で、バンカー法は「バンカークロップ」という、テントウムシやアブラバチなどのアブラムシの天敵を常に蓄えておくための植物を用意して、そこに天敵を待機させ、作物にアブラムシなどの害虫が付いた時に適宜捕食してもらうという方法です。

    バンカークロップには、(のちに紹介します)ソルゴーなどのイネ科の植物が使われることが多く、そこには「ヒエノアブラムシ」や「ムギクビレアブラムシ」など、メインの作物(この場合はナス)を食害しない種類のアブラムシが沢山つくので、普段はそこに天敵のテントウムシなどを蓄えておけるのです。

    このように、バンカークロップをアブラムシ防除をしたい作物のそばに植え、銀行に預けるお金のように天敵を蓄えて行う方法がバンカー法です。

    天敵を用いたバンカー法のメリットとは?

    バンカープランツ

    春先(4~6月)や秋(9~10月初旬)に発生するアブラムシは、そのすさまじい繁殖力で大切な作物に加害をしてきます。

    以前、別記事で「アブラムシの天敵を用いた生物学的防除方法」について書きましたが、現在は農薬耐性を持つアブラムシが増えてきているという理由から、農薬を使わないアブラムシの駆除方法が求められています。

    アブラムシの天敵は「生物農薬」として販売されており、ネットで簡単に購入することが可能です。

    しかし、ただ購入してアブラムシのいる株に放すだけでは、効果が十分に得られない可能性があるのです。

    その一番の理由として「アブラムシの発生状況から、天敵を放すタイミングを判断するのが難しく、失敗しやすい」という点があります。

    天敵を放すタイミングが早すぎれば、餌となるアブラムシが足りず天敵が数を減らしてしまいますし、逆に、遅すぎれば作物からアブラムシを駆除するのが遅れ、作物をダメにしてしまいます。

    この「天敵を供給するタイミング」という問題点を「バンカー法」は解決してくれるのです。

    具体的にバンカー法のメリットを挙げてみると、

    • 常に天敵が待ち構えている状態なので、タイミングを見極める必要が無い
    • 確立できれば農薬散布の回数が減り、安全面、コスト面、作業時間面の削減ができる

    上記のようなポイントが挙げられます。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]農薬散布量が減るのは経済的にも安全面でもとても嬉しいね![/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]アブラムシが増えだしたら、天敵が作物に移動して捕食してくれるから、人間の作業時間も減るぞい![/chat]

    バンカー法の注意点・デメリットは?

    一方で、バンカー法のデメリットにはどのようなものがあるのかというと、

    • バンカープランツを植える分、作物の栽培面積が減る
    • 露地栽培の場合、出穂したら実を食べに鳥が着て糞害を受ける可能性がある
    • バンカープランツの花粉が作物に付く可能性があり、出穂したら穂を刈る必要がある

    などが挙げられるでしょう。

    よくやりがちな失敗例としては、

    • バンカープランツについたアブラムシに農薬をかけて駆除してしまう
    • 天敵の見極めが出来ておらず、害虫だと思って駆除してしまう
    • 作物に付いたアブラムシを天敵が食べに来る前に農薬をかけてしまう

    等です。

    バンカープランツにいる天敵の量や、バンカープランツに集まる(メインの作物には害のない種類の)アブラムシの量をしっかり確認し、圃場に発生しているアブラムシのコロニーの大きさを見極めていく「観察力」と「判断力」そして、焦って農薬をすぐに散布してしまわない「忍耐力」が必要になるでしょう。

    また、誤って天敵を駆除しないために、しっかりとアブラムシの天敵の種類を把握しておくことが大切です。

    ソルゴー(ソルガム)とはどんな植物!?

    ソルガム

    ソルゴーは、熱帯アフリカ原産のイネ科の1年草で、「モロコシ」とも呼ばれます。

    乾燥した地域でもよく育ち、稲や小麦が育たない場所でも問題なく育ちます。

    日本では、防風用や緑肥用に改良されたものが多いのですが、有益な虫が多くつくことから、バンカートラップ用の植物として多く用いられるようになりました。

    大きいものでは背丈が3mを越すこともありますが、背丈の低いものでは1.2~1.5mほどの種もあるので、ハウス内でのバンカークロップとして活躍します。

    播種時期は、暖かい地方で5月~8月寒冷地では6~7月。日中の平均気温が15℃以上になれば可能です。

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]それではどんな種類があるのか見てみよう![/chat]

    ソルゴーの種類

    1.やわらか矮性ソルゴー

    【特徴】

    • 背丈が1.2m~1.5mで、ハウス内で栽培しても天井に届かず扱いやすい
    • 茎が太く倒れにくい
    • 茎葉が柔らかいため、すき込みやすく、また土中で分解されやすい
    • バンカークロップに使用した場合に、有益な虫が付きやすい
    • 出穂が遅いので、作物に花粉が付きにくい
    ハウス内利用(背丈)[star5.0]
    倒れにくさ(防風)[star3.0]
    緑肥使用[star3.0]
    バンカークロップ[star5.0]

    2.メートルソルゴー

    【特徴】

    • 背丈が1.2m~1.3mで、ハウス内で栽培しても天井に届かず扱いやすい
    • 倒伏にとても強い
    • 実が熟するとタンニンを含んで茶色くなり、鳥が食べに寄ってこないため糞害が減る
    ハウス内利用(背丈)[star5.0]
    倒れにくさ(防風)[star4.0]
    緑肥使用[star3.0]
    バンカークロップ[star4.0]

    3.ラッキーソルゴー

    【特徴】

    • 背丈は2m~2.8mと高め
    • 初期生育が早く、播種から約60日で出穂する
    • 根張りが良く、耐倒伏性が高い
    • 吸肥力が強く、圃場の塩分濃度を下げてくれる。緑肥に最適
    • サツマイモネコブセンチュウやキタネコブセンチュウの密度を抑制する
    ハウス内利用(背丈)[star2.0]
    倒れにくさ(防風)[star3.0]
    緑肥使用[star5.0]
    バンカークロップ[star3.0]

    4.ソルガム・ウインドブレイク

    【特徴】

    • 背丈は、2m~2.4mとやや高い
    • 倒伏にとても強い
    • 出穂がとても遅い、超極晩生
    • 葉数がとても多い
    • 圃場の風よけや、ナスの障壁栽培などに最適
    ハウス内利用(背丈)[star3.0]
    倒れにくさ(防風)[star5.0]
    緑肥使用[star4.0]
    バンカークロップ[star4.0]

    バンカー法に適したソルゴーの種類は?

    ソルゴー

    ソルゴー(ソルガム)には、

    • 緑肥に適したもの
    • バンカークロップに適したもの
    • 茎が強く倒伏に優れて防風に適したもの
    • 土壌の塩分濃度や有機物の調整に適したもの

    など様々な種類があります。

    いずれのソルゴーも有益な虫が付きやすいのでバンカー法に使えるのですが、ハウス内で使用する場合は「背丈の高さ」に注意しましょう。

    ハウス内での利用は、背丈が1m強にしかならない「やわらか矮性ソルゴー」「メートルソルゴー」が良いでしょう。

    露地栽培の場合は、「ラッキーソルゴー」「ウインドブレイク」などでも良いですね。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]背丈の違いは、ハウス内で栽培できるかどうかにかかってくるから大事な要素だね[/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]場所にあったタイプのソルゴーを使って、バンカー法をやってみるのじゃ[/chat]

    まとめ

    今回は、作物に発生したアブラムシを効率よく駆除するための「バンカー法」と、それに適した作物「ソルゴー(ソルガム)」についてご紹介いたしました。

    バンカー法の実施には、ある程度の知識や判断基準になる経験が必要になるかもしれませんが、実施することが出来れば得られるメリットはかなり大きいものになるでしょう。

    バンカー法を活用している畑では、農薬代や散布にかかる作業時間が4分の1程度まで減少できたところもあり、アブラムシに悩まされている農家さんは是非実施を検討してみてはいかがでしょうか。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]どの作物にもバンカー法は使えるの?[/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]現在は、全国的には「ナス」での利用が多いが、オクラやピーマン、イチゴなど他の作物でも導入が進んできているぞい[/chat]

    ※注:防除する作物によって使用すべきバンカープランツと餌となるアブラムシが異なるので注意しましょう

    アブラムシに関する詳しい生態は「アブラムシはどんな害虫?農家の敵アブラムシの生態まとめ」の記事をご覧ください。

  • アブラムシの天敵の種類と生物学的防除方法について

    アブラムシの天敵の種類と生物学的防除方法について

    畑の作物や花壇の花にアブラムシがついてしまった時に、農薬を使わずに防除したい場合には「天敵を使った生物学的防除」という方法があります。

    アブラムシはウイルス病を媒介する厄介な害虫ですが、アブラムシ自体は移動能力や攻防能力をほとんど持たないとても弱い虫です。

    そのため、自らが排泄する甘露という甘い分泌物を餌に、アリをボディーガードとして従えて天敵を追っ払ってもらう「共生」を行っています。

    甘くて柔らかいアブラムシには多くの天敵がおり、それらの天敵を使ってアブラムシを防除してしまうことが出来れば、農薬も必要ないし経費も節約できるでしょう。

    今回は、アブラムシの天敵の種類とその特徴をご紹介したいと思います。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]アブラムシの天敵ってそんなに沢山いるんだね![/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]虫は虫でも、農家にとってアブラムシの天敵は「益虫」であることが多いから、しっかり覚えて間違って駆除してしまわないようにしよう![/chat]

    天敵を用いる生物学的防除方法のメリットについて

    テントウムシ

    農作物や花を育てていると、様々な病害虫がいることに気が付きます。

    防除の方法として農薬や殺虫剤が第一選択になることが多いのですが、アブラムシの場合はできるだけ農薬を使わない方法が好まれます

    その理由としては、

    1. 同一系統の薬剤を継続して散布することで、薬剤抵抗性を持つ個体が増える
    2. 天敵が多く、生物学的防除方法が有効になりやすい
    3. アブラムシの種類によっては様々な種類の作物に付くために、農薬での防除が手間である

    などが挙げられます。

    特に①においては、これまでに作られてきた代表的な殺虫剤たちに対して抵抗性を持つアブラムシが増えてきているために、世界的にも問題になっているのです。

    特に「ワタアブラムシ」「モモアカアブラムシ」の2種は、有機リン剤、カーバメート剤、合成ピレスロイド剤などの薬剤が効かなくなってきている代表的なアブラムシです。

    これらのような抵抗性を持つアブラムシが今後出ないとは限らないので、極力農薬を使わない天敵を使った防除方法などを進めていくというのはとても大切なのです。

    ※アブラムシについてのより詳しい生態については「アブラムシはどんな害虫?農家の敵アブラムシの生態まとめ」の記事をご覧ください。

    アブラムシの天敵の種類と特徴について

    1.テントウムシ類

    テントウムシの幼虫

    アブラムシの天敵として真っ先に名前が挙がるのが「テントウムシ」でしょう。

    成虫も幼虫もアブラムシが大好物で、気温が温かければ一年中アブラムシを捕食します。

    テントウムシは、大きく分けると「肉食性」「菌食性」「草食性」の3種類おり、アブラムシを捕食するのは「肉食性」のテントウムシです。

    「肉食性」「菌食性(うどんこ病菌などを食べる)」は益虫であるに対して、「草食性」のテントウムシはナスの葉なども食べてしまうので、農家にとっては害虫に分類されます。

    では、アブラムシを捕食してくれる肉食のテントウムシにはどのような種類がいるのでしょう。

    【アブラムシを食べる肉食のテントウムシの種類】

    ナナホシテントウ/ナミテントウ/ダンダラテントウ/ヒメカメノコテントウ/ジュウサンホシテントウ/ウンモンテントウ/オオテントウ など

    ヒメカメノコテントウ

    ヒメカメノコテントウ

    上の画像は、ヒメカメノコテントウ。

    小型のテントウムシですが、食欲が旺盛で1日に50匹以上のアブラムシを捕食してくれます。生涯4000匹ものアブラムシを食べるといわれているそうです。また、アブラムシ以外にも、コナジラミなどの害虫を食べてくれるとても頼りになるヤツなんです。

    このヒメカメノコテントウは、アブラムシ対策として商品化もされています(商品名:カメノコS)。

    ナミテントウ

    ナミテントウ

    ナミテントウは、赤一色のナナホシテントウとは違い、黒やオレンジの種類がいます。

    成虫、幼虫ともアブラムシを捕食し、食欲旺盛で1日に50~100匹も食べるので、アブラムシにとっては一番の天敵です。

    このナミテントウの捕食力を生かすべく研究がすすめられ、近年では「飛ばないナミテントウ」として施設野菜用の天然製剤「テントップ(商品名)」が販売されています。

    飛ぶ能力の低いナミテントウを選抜して交配を繰り返すことで作られた「飛ばないナミテントウ」は、飛んで逃げることなくアブラムシを捕食し続けてくれます。

    価格は少々高めですが、農薬を使わずに、安全かつ継続的にアブラムシを捕食してくれるので、飛ばないナミテントウの利用はかなり効果が高いのでおすすめです。

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]テントップは、幼虫が届くから保存がきかないのが注意点。
    アブラムシの発生を確認したらすぐに購入する必要があるぞい![/chat]

    2.寄生バチ類

    チャバラアブラコバチ

    ※画像はチャバラアブラコバチ

    アブラバチ系の寄生バチは、アブラムシの体に卵を産み付けます。

    アブラムシの体内で育った幼虫は、アブラムシの養分を吸い取って成長し、最後には宿主であるアブラムシは死亡します。

    寄生バチの種類によっては、生涯300~500個の卵をアブラムシに産み付けるので、アブラムシの防除としてはとても有効性が高いです。

    【アブラムシに卵を産み付ける寄生バチの種類】

    コレマンアブラバチ/ギフアブラバチ/チャバラアブラコバチ/ナケルクロアブラバチ など

    コレマンアブラバチが資材化された「コレトップ」のほか、ギフアブラバチの資材「ギフパール」、チャバラアブラコバチの「チャバラ」など、様々な寄生バチ資材が販売されています。

    3.ヒラタアブ

    ヒラタアブ

    テントウムシと並んで、アブラムシの最重要天敵とされるのがこの「ヒラタアブ」です。

    その見た目から「ハチ」と間違えられやすいのですが、ハエの仲間です。

    成虫は花粉や花の蜜しか食べないのですが、幼虫は500匹以上のアブラムシを食べるといわれています。

    幼虫は捕まえたアブラムシの体液を吸って外側の殻だけにしてしまいます。

    ヒラタアブの幼虫

    ヒラタアブの幼虫は、半透明な蛆虫のようで見た目は害虫のようですが、沢山アブラムシを食べてくれる益虫ですので、駆除してしまわないようにしましょう。

    4.クサカゲロウ

    クサカゲロウ

    クサカゲロウもアブラムシの天敵として知られています。

    成虫はアブラムシが分泌する甘露や花粉を食べますが、アブラムシ自体は捕食しません。クサカゲロウの幼虫は、成虫になるまでに300~600匹のアブラムシを食べるといわれています。

    クサカゲロウの幼虫

    ※クサカゲロウの幼虫

    5.ショクガタマバエ

    タマバエ

    ※画像はタマバエの一種

    タマバエの仲間は、世界中に4600種類以上が見つかっており、ハエというよりも蚊に近い昆虫です。

    その中でも「ショクガタマバエ」の幼虫は、アブラムシを沢山捕食するので生物学的防除に利用されます。

    ショクガタマバエの幼虫

    ※ショクガタマバエの幼虫

    口吻をアブラムシに刺して、「毒液を注入して痺れさせてから体液を吸う」というコロンとした見た目からは想像しにくい食べ方をします。

    この幼虫1匹で約100匹のアブラムシを食べてくれるといわれています。

    6.ヒメハナカメムシ

    ヒメハナカメムシ

    (※修正 2018/4/7 :誤った画像を掲載していたため修正いたしました)

    ヒメハナカメムシ類は、比較的暖かい地域に生息しており、シロツメクサなどに集まるアザミウマなどの害虫を食べにやってきます。

    アザミウマ以外にも、アブラムシはもちろん、ダニなどの小さな虫を捕食します。

    ヒメハナカメムシも、ナミテントウなどと同様に生物農薬として販売されています。

    天敵を利用してアブラムシを駆除する方法

    アブラムシ

    ここまでに紹介した数々のアブラムシの天敵ですが、ただ畑であぐらをかいて待っていればどこからかアブラムシを食べにきてくれるわけではありません。

    前述した「テントップ」や「リクトップ」など商品化された生物農薬を購入して増やす方法が最も簡単で効果的ですが、アブラムシを発見してから、ただ天敵を放すのでは効果が不安定になりがちです。

    購入した天敵を利用する際に一番難しいのが「作物に放すタイミング」です。

    アブラムシが発生してすぐに大量の天敵を放すと、餌となるアブラムシが少なすぎて天敵が減ってしまいますし、逆に天敵を放すタイミングが遅すぎると捕食が追い付かずに作物がやられてしまうでしょう。

    近年では、天敵を貯蓄して待ち構える「バンカー法」を行って、常にハウス内に天敵がいる状態にする方法が注目されています。

    露地栽培をしている場合でも、ソルゴー(ソルガム)を使った障壁を作り、土着天敵を呼び込む方法も効果があります。

    バンカー法とソルゴーの利用については、「ソルゴーの種類とバンカー法のアブラムシ防除効果について」で詳しく説明をしていますので併せてご覧ください。

    天敵を利用した生物農薬の効果を最大限活用するためには、「天敵がいかに長期間滞在してアブラムシを捕食できるような環境を用意できるかどうか」という点にかかってきます。

    天敵が安定供給できるようなバンカー法を圃場に用意することが出来れば、農薬散布の回数も減り、農薬代と散布にかかる作業時間を大幅に減少させることが出来ます。

    さらに、天敵を利用した生物農薬では薬剤抵抗性のあるアブラムシを増殖する恐れもないので、長期的に見てもメリットは大きいでしょう。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]今まで自分たちが働いて農薬を散布していた代わりに、天敵の虫たちが働いてくれるなんて助かる~[/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]それでは最後に一度「天敵を用いた生物学的防除方法」についてまとめよう![/chat]

    まとめ

    【天敵を利用した生物農薬のメリット】

    • 薬剤抵抗性を持ったアブラムシを増やす危険性が無い
    • 農薬散布が減り、安全性の向上・経費の削減・散布にかかる作業時間の削減ができる
    • バンカー法を使えば安定した天敵の供給ができ、アブラムシを未然に防ぐことが出来る

    【天敵を用いたアブラムシ防除法の注意点・デメリット】

    • 天敵を作物に放すタイミングが難しい
    • バンカー法でないと、安定した天敵の供給が難しい
    • 販売されている生物農薬(天敵)は、いずれも高価である
    • ソルゴーなどのバンカーに使う植物を育てるタイミングをアブラムシの発生時期に合わせる必要があり、タイミングが難しい

    上記のように、天敵を用いたアブラムシの防除法は、実施するタイミングや天敵がアブラムシを上手く駆除してくれているかどうかの効果判定が難しいのが注意点です。

    生き物任せで防除するので、仕組みを構築するまでにある程度の時間がかかります。

    辛抱できずに農薬をまいてしまうと、餌を食べにやってくるはずの天敵がいなくなってしまったり、天敵ごと駆除してしまうなんてことが起きてしまう。

    天敵を用いた防除をする場合は、すぐに薬をまかない忍耐力防除のタイミングを見極める観察力が求められるでしょう。

    しかし、一度しっかりとした生物学的防除の環境が確立できれば、そこから得られるメリットはとても大きなものになります。

    また、「農薬を使わずにアブラムシを防除する6つの方法」の記事で、天敵による防除以外の無農薬アブラムシ防除法をご紹介していますので、こちらも是非ご覧ください。

    天敵を用いた防除方法についてのより専門的な知識をお求めの場合は、下記の「天敵活用大辞典」が参考になるでしょう。

    <アブラムシについての関連記事はこちら>

    https://inakasensei.com/aburamushi

    https://inakasensei.com/mozaiku

  • アブラムシが運ぶウイルスによって感染する「モザイク病」とは?

    アブラムシが運ぶウイルスによって感染する「モザイク病」とは?

    作物に被害を与えることで世界的に問題になっている植物病原ウイルスの一つに「モザイクウイルス」があります。

    このウイルスによって感染した作物は「モザイク病」という厄介なウイルス病になります。

    モザイクウイルスのうち、「キュウリモザイクウイルス(CMV)」「カブモザイクウイルス(TuMV)」は世界的に経済被害の深刻なウイルスとして知られています。

    これらのウイルスの媒介者となるのが、畑や花壇でよく見かける「アブラムシ」なのです。

    今回は、アブラムシによって運ばれてくる厄介なウイルスの特徴と対策についてご説明します。

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]アブラムシって密集して動かないイメージだけど、ウイルスを運ぶんだね![/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]アブラムシの存在で最も厄介なのは「ウイルス病」を媒介する点じゃ。しっかりと対策を取らないと作物がみんなダメになってしまうぞい![/chat]

    アブラムシが媒介するウイルスとは?

    有翅 アブラムシ

    アブラムシは、生まれて約10日で成虫となり、1カ月強の寿命の中で毎日出産をする、とても繁殖能力のすさまじい虫です。

    あまりの繁殖能力のすさまじさから、仲間のアブラムシが作物を埋め尽くしてしまうので、ある程度世代交代を繰り返すと寄生している作物の養分が足りなくなってしまいます。

    そのため、約3世代目以降の子供は、離れた場所にある作物に飛び移ることが出来るように「羽のある有翅形」の子供を産むことで寄生する場所を広げるのです。

    この「有翅形のアブラムシ」がウイルスを保毒していて、他の作物に移動した際にウイルスを伝搬してしまうのです。

    ※アブラムシの生態に関する詳しい情報は別記事「アブラムシはどんな害虫?農家の敵アブラムシの生態まとめ」を参照ください。

    アブラムシが伝搬することで有名なウイルスには以下のものがあります。

    1. キュウリモザイクウイルス(CMV)
    2. カブモザイクウイルス(TuMV)
    3. ジャガイモYウイルス(PVY)

    1.キュウリモザイクウイルス(CMV)

    キュウリモザイクウイルス(CMV)は、ナス科、ウリ科などをはじめ1000種類以上の植物にモザイク病を引き起こします。

    キュウリやトマトなどに多大な被害を与えるキュウリモザイクウイルスに抵抗性のある遺伝子はまだ見つかっておらず、感染した作物の多くは枯れてしまいます。

    CMVは、保毒しているアブラムシがたどり着いた植物が、自分の好みかどうか味見するために、口吻を数秒突き刺しただけで感染してしまいます。

    2.カブモザイクウイルス(TuMV)

    カブモザイクウイルス(TuMV)は、アブラナ科の植物をはじめに、キク科、ナス科などの200種類以上の植物に感染してモザイク病を引き起こします。

    感染すると、作物を枯らしたり、果実に奇形を生じさせたりします。

    3.ジャガイモYウイルス(PVY)

    ジャガイモYウイルス(PVY)は、主にじゃがいも、トマト、ピーマン、タバコなどで被害の大きいウイルスです。

    日本では、普通系統(PVY-O)、えそ系統(PVY-N)、塊茎えそ系統(PVY-NTN)の3系統があり、感染すると葉脈にえそを生じて、葉を枯らせてしまいます。

    モザイク病とはどんな病気?

    モザイク病

    モザイク病に感染した作物は、葉・茎などに黄淡色の濃淡のある病斑が出現しはじめ、葉脈に沿って緑が薄くなっていたりすると気が付きます。病斑は次第に株全体にモザイク状に広がっていきます。

    細菌感染性の病気とは異なり、一度感染してしまうと治療することが出来ない怖い病気です。

    感染経路は、

    1. アブラムシやコナジラミなどの昆虫による媒介
    2. 摘葉や収穫の際に使用したナイフやハサミ、人の手についたウイルスによる感染

    の2つが多いとされています。

    モザイク病の感染が起きやすい時期は?

    キュウリ

    モザイク病がアブラムシによって感染させられる場合、翅(ハネ)を持った個体が多く出現する時期が、モザイク病の感染の起きやすい時期だと考えられています。

    アブラムシの発生は春(4~5月)と秋(9~10月)に多く、この時期に多くの羽をもつ個体も飛来しているため、この時期になるとモザイク病に注意が必要な時期だといえるでしょう。

    作物がモザイク病にかかってしまったら

    モザイクウイルスに感染したタバコの葉

    作物が一度モザイク病に感染してしまったら、農薬では治療することが出来ません

    感染した作物をそのままにしておくと、モザイク病に感染した作物で育ったアブラムシが世代交代を繰り返し、ウイルスを保毒した有翅形の個体が周囲の株に移動することで、ウイルスが圃場全体に広がってしまう恐れがあります。

    既に感染してしまった株がある場合は除去をし、周囲にいるアブラムシを駆除する必要があります。

    モザイク病にかからないようにするための予防策

    バラの剪定

    モザイク病の予防としてできることは、下記の3つです。

    1. 摘葉や収穫をする際のハサミなどの道具はしっかりと消毒をする
    2. モザイク病に強い種とのの接ぎ木をした苗を利用する
    3. アブラムシの発生を予防をし、ウイルスの伝搬を防ぐ

    カブモザイクウイルスなどは、植物に感染してから葉に症状が現れるまでに10日以上かかる為、感染しているのに気づかないまま道具を使用することになります。

    特に、ウリ科の作物などは収穫の際にハサミを使う事が多いので、使用後には必ず消毒をすることで他の植物への感染拡大を防ぐことが出来るでしょう。

    また、アブラムシ自体を発生させないというのも重要な防除方法です。

    アブラムシの防除方法については「アブラムシの駆除を無農薬で行う6つの方法」の記事で詳しくご説明しています。

    まとめ

    [chat face=”buta.jpg” name=”” align=”left” style=”type1″]アブラムシが媒介するウイルス病って恐ろしいんだね![/chat]

    [chat face=”mu.jpg” name=”” align=”right” style=”type1″]感染を予防するためにもアブラムシの生態を知って、しっかりと防除するのが得策じゃの![/chat]

    今回はアブラムシが媒介するウイルス病についてご紹介いたしました。

    一度感染してしまうと除去する以外に手立ての無い「モザイク病」などのウイルス病は、できるだけ未然に防ぎたいものです。

    一番大切なのは「アブラムシの防除」ですので、アブラムシの生態や特徴を踏まえて効果的な防除対策を行いましょう。