作物や花に厄介なウイルス病を伝搬(*1)してくる「アブラムシ」の防除法として、最近注目を浴びているのが「バンカー法」という天敵を用いた方法です。
「バンカー」とは、「銀行家(Banker)」の意味で、天敵を貯蔵して害虫のアブラムシがやってきたときにそこから自在に天敵を引き出して、駆除をするという方法から名がつきました。
天敵を用いたアブラムシ防除法は、作物を扱う農家さんにとって様々なメリットがあります。
この記事では「天敵を用いたバンカー法のメリットと注意点」、及び「バンカー法に用いることの多いソルゴーの種類と特徴」についてご紹介いたします。
(*1)別記事「アブラムシが運ぶウイルスによって感染するモザイク病とは」をご参照ください。
Contents
バンカー法とは?
バンカー法についてですが、上記のイラストをご覧いただければわかりやすいでしょう。
従来の方法では、アブラムシなどの害虫が発生したのを見つけてから、生物農薬として市販されている天敵などを作物に放していました。
一方で、バンカー法は「バンカークロップ」という、テントウムシやアブラバチなどのアブラムシの天敵を常に蓄えておくための植物を用意して、そこに天敵を待機させ、作物にアブラムシなどの害虫が付いた時に適宜捕食してもらうという方法です。
バンカークロップには、(のちに紹介します)ソルゴーなどのイネ科の植物が使われることが多く、そこには「ヒエノアブラムシ」や「ムギクビレアブラムシ」など、メインの作物(この場合はナス)を食害しない種類のアブラムシが沢山つくので、普段はそこに天敵のテントウムシなどを蓄えておけるのです。
このように、バンカークロップをアブラムシ防除をしたい作物のそばに植え、銀行に預けるお金のように天敵を蓄えて行う方法がバンカー法です。
天敵を用いたバンカー法のメリットとは?
春先(4~6月)や秋(9~10月初旬)に発生するアブラムシは、そのすさまじい繁殖力で大切な作物に加害をしてきます。
以前、別記事で「アブラムシの天敵を用いた生物学的防除方法」について書きましたが、現在は農薬耐性を持つアブラムシが増えてきているという理由から、農薬を使わないアブラムシの駆除方法が求められています。
アブラムシの天敵は「生物農薬」として販売されており、ネットで簡単に購入することが可能です。
しかし、ただ購入してアブラムシのいる株に放すだけでは、効果が十分に得られない可能性があるのです。
その一番の理由として「アブラムシの発生状況から、天敵を放すタイミングを判断するのが難しく、失敗しやすい」という点があります。
天敵を放すタイミングが早すぎれば、餌となるアブラムシが足りず天敵が数を減らしてしまいますし、逆に、遅すぎれば作物からアブラムシを駆除するのが遅れ、作物をダメにしてしまいます。
この「天敵を供給するタイミング」という問題点を「バンカー法」は解決してくれるのです。
具体的にバンカー法のメリットを挙げてみると、
- 常に天敵が待ち構えている状態なので、タイミングを見極める必要が無い
- 確立できれば農薬散布の回数が減り、安全面、コスト面、作業時間面の削減ができる
上記のようなポイントが挙げられます。
バンカー法の注意点・デメリットは?
一方で、バンカー法のデメリットにはどのようなものがあるのかというと、
- バンカープランツを植える分、作物の栽培面積が減る
- 露地栽培の場合、出穂したら実を食べに鳥が着て糞害を受ける可能性がある
- バンカープランツの花粉が作物に付く可能性があり、出穂したら穂を刈る必要がある
などが挙げられるでしょう。
よくやりがちな失敗例としては、
- バンカープランツについたアブラムシに農薬をかけて駆除してしまう
- 天敵の見極めが出来ておらず、害虫だと思って駆除してしまう
- 作物に付いたアブラムシを天敵が食べに来る前に農薬をかけてしまう
等です。
バンカープランツにいる天敵の量や、バンカープランツに集まる(メインの作物には害のない種類の)アブラムシの量をしっかり確認し、圃場に発生しているアブラムシのコロニーの大きさを見極めていく「観察力」と「判断力」そして、焦って農薬をすぐに散布してしまわない「忍耐力」が必要になるでしょう。
また、誤って天敵を駆除しないために、しっかりとアブラムシの天敵の種類を把握しておくことが大切です。
ソルゴー(ソルガム)とはどんな植物!?
ソルゴーは、熱帯アフリカ原産のイネ科の1年草で、「モロコシ」とも呼ばれます。
乾燥した地域でもよく育ち、稲や小麦が育たない場所でも問題なく育ちます。
日本では、防風用や緑肥用に改良されたものが多いのですが、有益な虫が多くつくことから、バンカートラップ用の植物として多く用いられるようになりました。
大きいものでは背丈が3mを越すこともありますが、背丈の低いものでは1.2~1.5mほどの種もあるので、ハウス内でのバンカークロップとして活躍します。
播種時期は、暖かい地方で5月~8月、寒冷地では6~7月。日中の平均気温が15℃以上になれば可能です。
ソルゴーの種類
1.やわらか矮性ソルゴー
【特徴】
- 背丈が1.2m~1.5mで、ハウス内で栽培しても天井に届かず扱いやすい
- 茎が太く倒れにくい
- 茎葉が柔らかいため、すき込みやすく、また土中で分解されやすい
- バンカークロップに使用した場合に、有益な虫が付きやすい
- 出穂が遅いので、作物に花粉が付きにくい
ハウス内利用(背丈) | |
倒れにくさ(防風) | |
緑肥使用 | |
バンカークロップ |
2.メートルソルゴー
【特徴】
- 背丈が1.2m~1.3mで、ハウス内で栽培しても天井に届かず扱いやすい
- 倒伏にとても強い
- 実が熟するとタンニンを含んで茶色くなり、鳥が食べに寄ってこないため糞害が減る
ハウス内利用(背丈) | |
倒れにくさ(防風) | |
緑肥使用 | |
バンカークロップ |
3.ラッキーソルゴー
【特徴】
- 背丈は2m~2.8mと高め
- 初期生育が早く、播種から約60日で出穂する
- 根張りが良く、耐倒伏性が高い
- 吸肥力が強く、圃場の塩分濃度を下げてくれる。緑肥に最適
- サツマイモネコブセンチュウやキタネコブセンチュウの密度を抑制する
ハウス内利用(背丈) | |
倒れにくさ(防風) | |
緑肥使用 | |
バンカークロップ |
4.ソルガム・ウインドブレイク
【特徴】
- 背丈は、2m~2.4mとやや高い
- 倒伏にとても強い
- 出穂がとても遅い、超極晩生
- 葉数がとても多い
- 圃場の風よけや、ナスの障壁栽培などに最適
ハウス内利用(背丈) | |
倒れにくさ(防風) | |
緑肥使用 | |
バンカークロップ |
バンカー法に適したソルゴーの種類は?
ソルゴー(ソルガム)には、
- 緑肥に適したもの
- バンカークロップに適したもの
- 茎が強く倒伏に優れて防風に適したもの
- 土壌の塩分濃度や有機物の調整に適したもの
など様々な種類があります。
いずれのソルゴーも有益な虫が付きやすいのでバンカー法に使えるのですが、ハウス内で使用する場合は「背丈の高さ」に注意しましょう。
ハウス内での利用は、背丈が1m強にしかならない「やわらか矮性ソルゴー」か「メートルソルゴー」が良いでしょう。
露地栽培の場合は、「ラッキーソルゴー」や「ウインドブレイク」などでも良いですね。
まとめ
今回は、作物に発生したアブラムシを効率よく駆除するための「バンカー法」と、それに適した作物「ソルゴー(ソルガム)」についてご紹介いたしました。
バンカー法の実施には、ある程度の知識や判断基準になる経験が必要になるかもしれませんが、実施することが出来れば得られるメリットはかなり大きいものになるでしょう。
バンカー法を活用している畑では、農薬代や散布にかかる作業時間が4分の1程度まで減少できたところもあり、アブラムシに悩まされている農家さんは是非実施を検討してみてはいかがでしょうか。
※注:防除する作物によって使用すべきバンカープランツと餌となるアブラムシが異なるので注意しましょう
アブラムシに関する詳しい生態は「アブラムシはどんな害虫?農家の敵アブラムシの生態まとめ」の記事をご覧ください。