家庭菜園やガーデニングをしていると、いつの間にやら葉の裏や茎にびっしりとくっついている害虫「アブラムシ」
世界に4700種類、日本にも700種類いるといわれているアブラムシは、全世界の農家の敵として君臨している、とても厄介な害虫です。
世界的に深刻な経済被害をもたらす作物の病気の上位3つは、全てアブラムシの媒介によってもたらされるウイルスが原因と言われています。
道端の雑草でも見かけるアブラムシが、それほどまでに農作物にとって有害な虫であるという事は、農作物を育てた経験がある人でなければあまり知られていないかもしれません。
この記事では、まずアブラムシの生態についてまとめたいと思います。
Contents
アブラムシとは?
画像元:Flicker
- 和名:アブラムシ(油虫)通称:アリマキ
- 学名: Aphidoidea(アブラムシ上科の総称)
- 階級:カメムシ目アブラムシ上科
- 生息範囲:日本全国(世界中にいる害虫)
- 生息場所:作物の生長点(若く柔らかい葉)、もしくは古くなった下葉
- 活動時期:春(4~6月)と秋(9~10月)
- 体長:2.0mm~4.0mm
- 寿命:約30日~40日
- 好物:硝酸態窒素が豊富な土、アブラナ科の植物
- 弱点:キラキラ反射するもの、気門がふさがると窒息死する
- 厄介な点①:暖かい地域ではメスの単一生殖で繁殖し、子供だけでなくひ孫も同時に産む
- 厄介な点②:同一成分の農薬ばかり使うと耐性を持つアブラムシが増える
- 厄介な点③:カビやウイルスの媒介者となり、作物を病気にしてしまう
アブラムシの変わった生態と習性
1.繁殖力がめちゃくちゃすごい
アブラムシの生態の一番の特徴としては「繁殖力の凄さ」があげられます。
冬でも暖かい地域(九州地方など)は、メスはオス無しの単一生殖で繁殖します。
「幹母」と呼ばれる第1世代のメスは、生まれて僅か10日で成虫となり、毎日数頭ずつ出産します。
しかも、特に不思議な生態が「生まれてくるメスは既に子をお腹に宿した状態で生まれてくる」という点です。
そのため、短期間での爆発的な増加が可能となり、ほんの1匹のメスが寿命を終えるまでに約1万倍に増殖してしまう計算になります。
2.世代交代が進んだら、翅(ハネ)のある子を産むようになる
アブラムシは基本はほとんど植物の上で移動しない虫です。しかし、驚異の繁殖力ゆえに、ある程度繁殖を繰り返すと植物の表面が仲間で埋まってしまうため、吸い取る養分が足りなくなってしまいます。
そのため、第3世代以降にはこれまでの無翅型のずんぐりむっくりした子供から一転、有翅型の飛翔能力のある子を産むようになります。
3.アリを従えて天敵から身を守る
アブラムシ自体は、移動能力も低くとても弱い虫です。
しかも、体も柔らかく栄養満点なので、テントウムシなどの肉食系昆虫の天敵が多いのですが、アブラムシは甘露と呼ばれる甘い排泄物を出し、それをなめにくるアリを味方につけます。
全てのアブラムシがアリと共生関係にあるわけではないのですが、自分の弱さをアリを味方につけることによって補うという賢い一面もあるのです。
このような側面を知って、農家の人間は「天敵を味方につけてアブラムシを退治しよう!」と考えました。
近年では、アブラムシの天敵を用いた生物農薬の開発と、その天敵の効果を最大限発揮する「バンカー法」という生物学的防除法を用いてアブラムシを防除する動きが盛んになってきています。
人間側がうまくアブラムシの天敵を操れるようになれば、アブラムシの被害を減らすことが出来るようになってくるかもしれません。
4.黄色が好き
アブラムシの特徴として、「黄色いものに寄ってくる」という習性があります。
おそらく、好物のキュウリなどの花が黄色だからだと考えられていますが、この習性を利用してアブラムシを捕獲する罠を仕掛けることもできます。
黄色い粘着テープを仕掛けたり、黄色いバケツにアブラムシ捕獲用の液体を入れて捕まえて駆除するという方法もあります。
アブラムシの駆除方法については、こちらで詳しくご紹介しています。
5.体内に「ブフネラ」という共生微生物をすまわせている
アブラムシは、天敵から身を守ってくれるアリだけでなく、体内にも自らが合成できない必須アミノ酸を産生してくれる「ブフネラ」という微生物と共生しています。
ブフネラは、アブラムシが植物から吸う師管液をもらう代わりに、アブラムシにとって必要な必須アミノ酸を作ります。
ブフネラはアブラムシの体内でなくては生きられず、アブラムシもブフネラがいないと生きられません。
6.葉っぱを丸めたり、虫こぶを作って隠れる
上の写真のように、くるっと葉っぱを丸めたり、植物の葉に寄生して虫こぶの中で暮らしたりする習性があります。
葉の裏にびっしり張り付いて、葉を丸めることによって雨風を防いだり、天敵に見つかりにくくする目的があるといわれています。
アブラムシの不思議な生態まとめ
- 繁殖能力がすさまじく、1匹が約1万倍に増える
- 孫をお腹に宿した子供を産む
- 餌が無くなりそうと感じたら、ハネのある子を産んで遠くに飛ばす
- 外敵からはアリ、体内ではブフネラと共生関係にある
- 黄色が好き
アブラムシの厄介な生態と特徴
1.ウイルスを運んでくる
※画像はイメージです(アブラムシの媒介するウイルスによるものではありません)
記事の冒頭でも書きましたが、アブラムシの厄介な点は「ウイルスの媒介者になる」という点です。
特に有名なのが「モザイク病」です。
世界的に経済損失を与える作物のウイルスランキング(Tomlinson 1987)の上位3つは下記の通りです。
- キュウリモザイクウイルス:CMV
- カブモザイクウイルス:TuMV
- ジャガイモYウイルス:PVY
世界中で農作物に被害を与えている、これらのいずれもアブラムシによってもたらされる病気なのです。
ウイルスの厄介な点は、薬で治療ができる細菌感染による病気と違い、一度感染すると治療することが出来ないところ。
ウイルスを保毒した有翅形のアブラムシによって伝播されるのですが、たった一匹のアブラムシからでもウイルスは感染させられてしまうのです。
ウイルスに感染した作物で育ったアブラムシが、有翅形となり他の作物に移動することで感染は拡大してしまいます。
有翅形のアブラムシが増える前に手を打つことが大切になります。
アブラムシが媒介するウイルス病についての詳細は、別記事「アブラムシが運ぶウイルスによって感染するモザイク病とは?」の記事をご覧ください。
2.カビを運び、作物を「すす病」にしてしまう
大量のアブラムシが作物につくと、アブラムシの分泌物が葉や茎についてテカテカしてきます。
その分泌物によってすす病菌というカビ(糸状菌)が繁殖して、黒いすす状に葉が変色していきます。
すす病になってしまうと、光合成が妨げられてどんどん作物が弱っていきます。
カビが繁殖するだけでなく、作物に甘露(分泌物)が付くことでベトベトになってしまい、作物が出荷できない状態になってしまうことがあるので、アブラムシの繁殖は農家さんにとってとても頭の痛い問題なのです。
すす病は「トップジンMゾル」や「ベンレート水和剤」などの殺菌剤が有効ですが、アブラムシが原因である場合は、アブラムシの駆除が先決になります。
すす病についてのより詳しい情報と対処法、薬剤の説明については下記関連記事をご覧ください。
3.同じ農薬ばかり使うと、抵抗性を持つ個体が増える
アブラムシの駆除の歴史の中で、様々な殺虫剤(農薬)が使われてきましたが、近年では「有機リン剤」「カーバメート剤」「合成ピレスロイド剤」「ネオニコチノイド剤」などに対して抵抗性を持つアブラムシが発見されてきました。
同一成分の農薬ばかりを使うと、遺伝的にその薬剤に抵抗性をもった種が生き残り、その種が世代交代を繰り返して大繁殖してしまうと駆除の手立てはなくなってしまいます。
アブラムシの駆除においては、農薬ばかりに頼るという方法はあまり得策だとは言えないでしょう。
以前こちらの記事「アブラムシの駆除を無農薬で行う6つの方法」でご紹介したように、多くの農家が無農薬でのアブラムシ防除法を求めて試行錯誤をしています。
完全に無農薬で防除できなくとも、これらの無農薬防除法を併用することで農薬の散布量を減らすことが出来たら、アブラムシの薬剤抵抗性の発達を抑制することが出来るかもしれません。
まとめ
アブラムシの不思議な特性と生態についてご紹介いたしましたがいかがでしたでしょうか。
アブラムシの驚異的な繁殖能力と、ウイルスの媒介者になるという点が世界中の農家さんを悩ませているという事がお分かりいただけたと思います。
アブラムシにつきましては、生態の他にも「アブラムシが運んでくるウイルス病」や「アブラムシの天敵」などについては、記事中で紹介しました別記事でまとめてありますので、是非ともそちらをご参照ください。