家庭菜園や園芸をやっている方なら、一度は「オルトラン」という殺虫剤の名前を聞いたことがあるかもしれません。
先日我が家の畑に大量のハムシが発生したためにオルトランを散布したのですが、実は同じ「オルトラン」の名前でいくつか「違う剤系」と「同じ剤系で名称が違うもの」があることをご存知でしょうか。
「”コガネムシの幼虫にはオルトランが効く”と聞いたけど、どのオルトランを購入すればいいのかわからない!」などと、使い分けに迷う方が多くいらっしゃるようなのです。
この記事では、オルトランの特徴と使い方、剤系や種類別の違いなどについて解説いたします。
Contents
オルトランはどんな薬剤?
オルトランは1973年に発売された歴史の長い殺虫剤です。
一般名は「アセフェート」といい、有機リン系の殺虫剤・農薬の名称でもあります。
特徴は、水溶性で浸透移行性が高いこと。
作物や植物の根や葉から薬剤が浸透し、その植物を害虫蛾吸汁したり食害すると薬剤が体内に入り込み、食毒効果により死に至ります。
植物体内で安定的に作用するので、雨による流亡や日光による分解がされにくく、残効が長いことも特徴です。
オルトランの良い点
・ポピュラーな農薬なので情報が沢山ある
・食毒効果が強く、残効性も高いので害虫を駆除しやすい
・吸汁&食害する害虫に選択的に効くため、植物をかじらない無害な虫には害が少ない
・哺乳類・鳥類・魚類毒性が低い
・作物・植物への薬害が少ない
オルトランの悪い点
・臭いがとてもくさい
・残効性が強いので、収穫までの期間が長め
・歴史が古い薬剤なので抵抗性を持つ害虫が増えてきている
・薬剤の種類が多く使い分けに迷いやすい
オルトランの毒性は?メタミドホスの問題は?
オルトランの主成分であるアセフェートの毒性は「普通物」に分類されていて、哺乳類・鳥類・魚類への毒性は低く安全な薬剤とされています。
それは当然、適正使用量・使用時期・使用回数を守ればの話で、製品パッケージに記載されている適用法を逸脱すれば、毒性が高まるだけでなく農薬取締法違反で捕まります。
オルトランの安全性を語るときに出てくるのが、オルトランに微量に含まれている「メタミドホス」という物質の毒性についてです。
オルトランに微量に含まれているのに加え、植物体内でアセフェートが一部分解されてメタミドホスに代わることを問題視する声がよく上がるのですが、前述の通り使用方法を間違わなければ人体に影響がある毒性濃度にはなりません。
オルトランの効果がある害虫の種類
アブラムシ、アザミウマ、コナジラミ、カイガラムシ、カメムシ、ウンカ、ヨコバイ、グンバイムシ、ヨトウムシ、アオムシ、ウワバ、コナガ、ハマキ、ケムシ、ハムシ、ノミハムシ、ハバチ、ハモグリバ、ハモグリガ
オルトランは商品の種類によって適用のある作物や害虫が違うので、必ず使用前に確認が必要ですが、葉や根を食害もしくは吸汁する害虫全般に広く殺虫効果を発揮します。
一方で、益虫であるミミズへの影響は少ない薬物であると言われています。
オルトランの種類と使い方
現在(2018年5月)販売されているオルトランには、下記の5種類があります。
(※各商品は時にメーカーが販売を中止することがありますのでご注意ください)
○GFオルトラン粒剤
○オルトラン水和剤
○オルトラン液剤
○オルトランC
○オルトランDX粒剤
GFオルトラン粒剤の特徴
有効成分:アセフェート5.0%
オルトラン粒剤は、「苗を植える前に土の中に混ぜ込んで定植する」もしくは「株元に散布する」という方法が一般的です。
粒剤が水にぬれることによって根などから吸収され、植物体内に行き渡ることによって吸汁害虫などを駆除することができます。
粒剤の注意点としては、背の高い植物には使用しにくい(根から吸い上げた殺虫成分はせいぜい50~100cmしか吸い上げられない)という特徴です。
背の高い植物に使う場合は、水和剤か液剤等を植物の上の方に散布する必要があることを覚えておくと良いでしょう。
オルトラン水和剤の特徴
有効成分:アセフェート50%
オルトラン水和剤は、白色の粉末で水に溶かして使うタイプの薬剤です。
水で希釈するタイプのものに液剤もあり(違いは後述しますが)、噴霧器で希釈液を散布することによって、枝葉から吸収された薬剤が植物体内に浸透して害虫の駆除効果を持つようになります。
害虫自体に散布するというよりは、植物に浸透させて吸汁・食害をしてきた害虫を駆除するタイプの薬剤ですので、必ずしも害虫に薬剤がかかる必要はありません。
粒剤などでは効果が行き届かない背丈の高い植物等への使い分けができますが、適用が異なる場合があるのでしっかりとパッケージを確認してから使うようにしましょう。
オルトラン液剤の特徴
有効成分:アセフェート15%
オルトラン液剤は、水和剤同様に水で希釈して散布するタイプの薬剤です。
使用方法は水和剤と同様ですが、希釈率や適用が違うので注意しましょう。
オルトランCの特徴
有効成分:MEP0.17%、トリホリン0.15%、アセフェート0.19%の混合エアゾル剤
GFオルトランCはエアゾールタイプの薬剤で、アセフェートに合わせてMEP(フェニトロチオン:商品名スミチオン)という殺虫成分と、うどんこ病・黒星病によく効く殺菌剤のトリホリン(商品名:サプロール)を配合しているエアゾールタイプの商品です。
適用は主に草花や樹木で、アセフェートとスミチオンという代表的な2つの殺虫成分と、サプロールという殺菌剤が配合されているため、害虫と病気の両方に効く薬剤です。
オルトランDX粒剤の特徴
有効成分:アセフェート2.5%、クロチアニジン0.25%
オルトランDX粒剤は、殺虫成分がアセフェートとクロチアニジンの2種類が配合されており、アセフェートに抵抗性を持ってしまっている害虫に対しても効果が期待できる薬剤です。
使用方法についてはGFオルトラン粒剤と大きく変わりませんが、適用が違うので使用前に必ず確認するようにしましょう。
オルトランの液剤と水和剤・GF粒剤とDX粒剤の違い
オルトラン液剤とオルトラン水和剤の違いとは?
オルトランの中で水で薄めて使用するものに「オルトラン液剤」と「オルトラン水和剤」の2種類があります。
適用表を見ると、希釈倍率や効果のある害虫に違いがありますが、有効成分はいずれもアセフェートで同じです。
一見、アセフェートの濃度は水和剤の方が高く、希釈倍率も1000~2000倍であることから水和剤の方が強い薬剤であるように思いますが、同じ倍率で希釈すると濃度は変わりません。
適用害虫の表を見ると水和剤の方が多くの害虫に効果があるようにも思えますが、これはメーカーがより水和剤の方で多くの試験を行い、農薬の登録申請時に液剤よりも多くの結果を申請したというだけの事なのです。
この理由の他にも、水和剤と液剤の2種類があるのには「パッケージングの違い(液剤は大きく保管場所をとる)」というのもあるでしょう。
水和剤は粉状なので、保管スペースも少なくできるという「流通面でのメリット」が大きい商品でもあります。
使用する側にとっては効果に違いはありませんが、様々な事情があって水和剤と液剤があるんですね。
GFオルトラン粒剤とオルトランDX粒剤の違いとは?
オルトランDX粒剤:アセフェート+クロチアニジン
オルトランの粒剤タイプの商品には「GFオルトラン粒剤」と「オルトランDX粒剤」の2種類があります。
両者の大きな違いは有効殺虫成分が「アセフェートのみ」か「クロチアニジンが合わさっているか」という点です。
アセフェートは有機リン系の殺虫成分で、クロチアニジンはネオニコチノイド系の殺虫成分です。
クロチアニジンが含まれることによって、長らく使われてきたオルトランの主成分である有機リン系の殺虫成分に抵抗性を持つアブラムシやアザミウマなどの吸汁害虫に対して、より確実な効果が見込めるという点がメリットとして挙げられます。
クロチアニジンは、食毒効果が強く残効性も長いという特徴がありますが、害虫の体内に入ってすぐに効果が出て駆除してくれるというよりは、神経系に作用して作物の根や葉をかじることができなくなり、餓死するというタイプの薬剤です。(※参考:虫害ポケットブックオンライン)
そのため、コガネムシの幼虫やネキリムシなど根をかじるタイプの害虫に効果があると言われています。
上記のような理由から、結論としては「オルトランDXの方が、有機リン系殺虫剤に抵抗性を持つ個体にも効果が見込め、また相乗効果によりその他の害虫にも効果が強く現れる可能性がある」と言えるでしょう。
ただし、オルトランDXはキャベツ・ブロッコリー・大根などには使えないなど、適用作物や適用害虫の記載が微妙に異なっているので、購入前に必ず適用表を確認するようにしましょう!
まとめ
オルトランは長い歴史の中で様々な剤形・特徴を持った殺虫剤を販売しています。
その種類の多さから使用方法がわかりにくくなっていることもあるため、今回各剤形ごとの特徴と似ている商品間の違いについて解説いたしました。
基本的には、オルトランは害虫に直接かける薬剤ではないこと、似ている商品間でも大きく適用が違うことがあることなどに注意して、適用表をよく確認することが大切でしょう。