のど飴に利用されることの多い「カリン」は庭木としても人気の植物で、私の家の畑にもかなり前から植えられていて毎年沢山の実をつけてくれます。
カリンは一般的な果実とは違い、硬さと渋さから生食できないうえに毒性もあるので糖分やアルコールでの加工が必須。
食べ方や安全性についてよくわからないという人も多いので、本記事ではカリンの基本情報と毒性、おすすめの食べ方、育て方について解説いたします。
Contents
カリン(花梨/榠樝)とはどんな植物?
- 和名:カリン 別名:安蘭樹(アンランジュ)
- 学名:Pseudocydonia sinensis
- 英名:Chinese quince
- 階級:バラ科カリン属
- 分類:落葉高木
- 分布:中国原産、関東以北
- 花期:3~5月
- 特徴:寒さに強く、暑さに弱い。果実は生食に適さない
カリンは芳香の高い果実ですが、果肉中に石細胞(せきさいぼう)が多く含まれているので硬く、味もとても渋いので生食には適しません。
カリンは生食できないため、カリン特有の香りやのどに効く効能(※後述)を、砂糖漬けやアルコール漬けでうつしとって利用するのが一般的です。
カリンの旬の時期・収穫期
カリンは庭木としても人気があるので、日本全国で育てられている植物ですが、基本的には暑さに弱く北関東以北が主な産地です。
我が家のカリンが収穫できる位に大きくなるのは11月初旬頃で、その頃には葉もすっかり落ちて黄色い実だけが枝に残っていることが多いですね。
カリンと似た植物「マルメロ」との違い
カリンとよく似た植物に「マルメロ」があります。
マルメロはバラ科マルメロ属で、別名は「セイヨウカリン」といいますが、カリンとは別の植物で西洋原産でもありません(ペルシャ地方など中央アジア原産らしい)。
長野県などでカリン同様に栽培されていて、地方によってはマルメロの事をカリンと呼ぶ場合もあるようですが、最近では別の植物としてカリンとマルメロを区別するようになってきています。
カリンは表面がツルツルしているのに対して、マルメロは産毛が生えているので手触りですぐに見分けることができます。
カリン同様に芳香が強く、果実は硬く生食に向かないので加工して食べられています。
カリンの変わった使い方「芳香剤」代わりに車内に置く?
カリンをつかってカリン酒などを作っている義母に聞くと、「カリンのかぐわしい芳香を楽しむために、芳香剤代わりに車内に置いている人がいる」と教えてもらいました。
確かにそのままでは食べられないので、あえてカリン漬けやカリン酒を仕込む人でなければ、あまり使い勝手のいい食材とはいいがたいカリンですが、その香りを芳香剤のようにして楽しむというのは盲点でした。
ただし、カリンは少し表面がべとつくので、実際に車内に置く場合はあちこち転がらないように気をつけましょう。
カリンの効能と毒性【薬にも毒にもなるアミグダリン】
カリンの栄養価と効能:「咳止め」「痰切り」など、のどに効く
カリンの栄養価で特筆すべきものは「食物繊維」「ビタミンC」「カリウム」です。
のど飴に使われることが多いように、カリンには「咳止め」や「去痰」などのどへの効能があり、原産地の中国でもはるか昔から咳止めや鎮痛剤として利用されていたと言われています。
日本でも「和木瓜(ワモッカ)」という名前で生薬(漢方)として、咳止めや喉の炎症止めに利用されていました。
この効果を持つのが「アミグダリン」という成分です。
カリンの毒性:アミグダリンとシアン化水素について
カリンの食べ方をご紹介する前に、カリンの毒性について触れておかなくてはいけません。
カリンを含む「バラ科の植物」の未熟な果実にはアミグダリン(Amygdalin)と呼ばれる青酸配糖体という成分が含まれています。
アミグダリンを持つバラ科の植物
梅・アーモンド・桃・リンゴ・カリン・あんず・ビワ・スモモ・サクランボ 等
このアミグダリン自体には毒性は無いのですが、これらバラ科の未熟な果実(特に種子)を生食すると、体内で腸内細菌の働きによって分解され、最終的にはシアン化合物である青酸(シアン化水素)を生じます。
このシアン化合物が人間にとって有毒で、致死性の毒物であることから青梅や杏仁豆腐、カリン漬けなどを食べる際に毒性について耳にすることがあります。
・生の果実&種子は苦くて大量に摂取することはそもそも難しい
・加熱・アルコール・加糖によって分解する
冒頭でも少し触れましたが、カリンの生の果実は硬いうえに渋くてとても口に入れられるようなものではありませんし、カリン酒やカリンシロップなどを作る過程でアルコールや砂糖(ハチミツ)等によって毒性は分解されます。
カリン漬けなどに種も一緒に入れている場合は、噛み砕かないように取り除いて使えば中毒を起こすような毒性は残らないので心配する必要はありません。
国立健康・栄養研究所によると、
果物中のアミグダリンは果実の成熟に従い消失し、また梅干しや梅酒、梅漬けなどの加工によって、分解を促進すると言われているため、これらの加工品に残存しているアミグダリンの量は僅かであると考えられる。
アミグダリン、レートリル、レトリル :国立健康・栄養研究所
と、加工品におけるアミグダリンは分解されているので心配するほどの量ではないと書かれています。
ポイントは、アミグダリンが癌に効果があるなどという情報を信じて、個人の判断でサプリメントや生の種子を多量に摂取してしまった場合などです。過去にはバラ科のアンズの種を30~40粒ほど摂取して中毒症状が現れた例などがあるので注意喚起がされています。
しかし、常識の範囲内でカリン漬けなどを作って摂取する分には何も問題はありません。
カリンの食べ方
カリンの代表的な食べ方には「カリン酒」「カリンシロップ」「はちみつ漬け」などがあります。
※画像は自家製カリンシロップ
カリン酒の作り方
・氷砂糖:100~150g
・ホワイトリカー:900~1000ml
1.カリンをよく水洗いをして水気をふき取る
2.5mm程の厚さに皮ごとスライスをする
3.熱湯消毒した容器にカリン(種ごと)と氷砂糖を交互に入れる
4.最後にホワイトリカーを入れる
5.冷暗所で保存し、半年~1年で果実を取り出し完成
毎月1回ほど瓶をゆすって中の果実を動かします。最低でも半年ほど待った方が、カリンの中にあるアミグダリンの分解が進み、カリンエキスが全体に行き渡り美味しくなります。
かりんのはちみつ漬けの作り方
・はちみつ:適量(カリンが全てひたひたになるくらい)
1.カリンをよく水洗いをして水気をふき取る
2.5mm程の厚さに皮ごとスライスをする
3.熱湯消毒した容器にカリン(種ごと)いれ、はちみつをたっぷり入れる
4.冷暗所で2か月ほど待ってカリンを取り出せば完成
基本の工程はカリン酒の作り方と同じですが、はちみつ漬けの場合は完成まで約2ヵ月です。
カリンの育て方
カリンは果実から採取した種をまいても育てることができますが、結実まで10年ほどを要します。
カリンの特徴は、
・乾燥を嫌う(水持ちの良い土壌、用土)
・病気には比較的強い、害虫はアブラムシに注意
・種子の発芽には一定期間の「冬の寒さ」が必要
・種まきは春(3~4月頃)
・肥料は春・秋の2回
・植え付けは冬~春の間(11月~3月)が適期
種から育てる場合は、秋に収穫(or購入)したカリンの種子を採取したら、冷蔵庫で(光が当たらないように)保管します。
キッチンペーパーを湿らせて種子を包み、新聞紙でさらに包んで光を遮断し、ジップロックなどに入れて春になるまで乾燥させずに保管することで、自然界で土の中に落ちた種子が春を待つような環境であると種子に思い込ませることができます。
バラ科の植物は種子に「冬を体験させる」ことで、気温が上がって種をまいた時に種子が春だと勘違いして発芽しやすくなる性質があるので冷蔵庫保管はよく行います。
植えたい場所に種をまいてしまって、自然環境の下で冬を体験さえる方法でもOKですが、個人的には前者の方が発芽率がいいように思います。
発芽後は生長に伴い追肥、植え替え、剪定を繰り返して結実するまで辛抱強く育てましょう。
まとめ
なかなか一般のスーパーでは見かけることの少ないカリンですが、食用としてよりも庭木として接することの方が多いかもしれません。
結実までは時間がかかりますが、比較的育てやすい植物なので根気強く育ててみましょう。
もし収穫することができたら、是非ご家庭ではちみつ漬けやカリン酒などを作って楽しんでみましょう!