世界的な農業害虫として知られているアザミウマの防除方法として、近年「赤色防虫ネット」の効果が期待されています。
従来の網の目を小さくして虫が中に入らないように物理的に防除する防虫ネットとは違い、アザミウマの可視領域(色の見える範囲)を利用した画期的な防除方法なのです。
今回は、赤色防虫ネットがどのようにしてアザミウマを忌避し、作物をどの程度守れるのかを分かりやすく解説したいと思います。
詳しくは記事内で解説するからよく聞いておくんじゃよ!
※アザミウマの生態については、別記事「アザミウマの生態を知って防除に活かそう!」で詳しく説明しています。
赤い色はアザミウマが認識できない色!
1.赤色防虫ネットでアザミウマを寄せ付けない!
近年、アザミウマの防除方法として脚光を浴びているのが、赤色の防虫ネットを使用するという防除法です。
従来は防虫ネットで害虫を通さないためには、網目を細かくすることで侵入を阻止しようとしていましたが、アザミウマの体長はわずか1mm弱のため、0.4mmの目でも通ってしまうことがありました。
しかもそれ以上に目を細かくすると、通気性が悪化し、ネットの内部が高温になってしまうため、作物にとってもあまり良くありませんでした。
この赤色防虫ネットは、網目は0.6mmと0.8mmがあり、サイズ的にはアザミウマが侵入できてしまうにもかかわらず、絶大な忌避効果を発揮します。
その理由としては、赤色はアザミウマの認識できる可視領域の波長を上回る620nm以上であるため、赤色防虫ネットに覆われた場所はアザミウマにとってほとんど見えていない(真っ暗に見える)ため、被害が減るのではないかと言われています。
上のグラフは、「虫の視感度と人間の視感度の違い」を表したグラフです。
昆虫の可視波長域は、およそ250~600nm(ナノメートル)と言われていますので、種類によって個体差はありますが、虫は一般的に青や紫の光が良く見えており、赤など波長の長い色はほとんど認識できていません。
逆に、虫の走光性を利用した電気捕虫器などは、青白い光で虫を誘引する作りになっていますよね?
このように、虫の認識できない「赤色」で作物を覆う事によって、アザミウマから中の作物が見えなくなり、飛来するのを防ぐという効果があります。
こちらのグラフを見ると、効果の違いが一目瞭然です。
※引用:赤色ネットの被覆による葉ネギのネギアザミウマの防除 : 上山ら (2013)
赤色ネットを被覆した作物のアザミウマ寄生数は、無被覆の僅か10分の1、白色ネットの6分の1と、明らかな減少がみられました。
また、別の研究でも下記の様な結果が示されています。
※引用:赤色防虫ネットとスワルスキーカブリダニを利用したキュウリ黄化えそ病対策:妙楽ら (2016)
キュウリ苗に寄生したミナミキイロアザミウマの寄生頭数は、
赤色防虫ネット(0.6mm)<赤色防虫ネット(0.8mm)<白色防虫ネット(0.4mm)<無処理
の順で多くなっています。
白色防虫ネットの網目はわずか0.4mmと最も小さいにもかかわらず、0.6mm、0.8mmの赤色防虫ネットよりもミナミキイロアザミウマも寄生頭数が多く、赤色防虫ネットのアザミウマ忌避効果が高いことが分かります。
網目が大きい分、通気性も確保されているためトンネル内温度が上がり過ぎないというのもおすすめできるポイントです。
「赤色防虫ネットを使用することで作物の日照度合いに影響はないのか?」と、心配される方も多いようですが、白色防虫ネットとの作物の生育具合の比較試験を行った結果、両者に生育具合の差は見られなかったようです。
農薬を使うことなくこれだけの忌避効果を発揮する「赤色防虫ネット」
アザミウマの防除法としては現在とても注目されている理由が分かりますね。
この赤色防虫ネットで忌避効果が証明されているアザミウマは、
- ミナミキイロアザミウマ
- ミカンキイロアザミウマ
- ネギアザミウマ
等です。
これら以外のアザミウマに対しても忌避効果が期待されているので、もしもその他のアザミウマの加害にお悩みの場合は、是非赤色防虫ネットをお試ししてみてください。
2.赤色LEDを使用する
赤色ネットと同様に、赤色のLEDを圃場やハウス内に設置して照射するという方法もアザミウマ防除に効果的だという研究結果が出ています。
その研究は「温室メロン栽培における赤色LED照射によって、ミナミキイロアザミウマの密度がどの程度抑制されるか」という物で、ガラス温室及びビニールハウスのいずれにおいても、赤色LED照射時のミナミキイロアザミウマの減少が確認されたと結論付けています。
参考:温室メロン栽培における赤色LED光照射によるミナミキイロアザミウマの密度抑制
方法は簡単で、赤色LEDをハウス内にぶら下げるだけ!
電気代とLED費がかかりますが、ハウス内全体のアザミウマ数の減少が期待できる方法です。
注意点としては、葉が大きく成長すると影ができてしまい、LEDの光が届かない場所が増えてくると、その場所にアザミウマが増殖してしまうという点です。
赤色LED光照射によるアザミウマ防除は、アザミウマの全滅を目的に使うのは難しいので、あくまで被害の軽減を目的とした方法であると認識した方がよいかもしれません。
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こちらのLEDライトは、前述した参考文献でも使用されているもので、この光強度(1×10^18photons·m^-2·s^-1)であれば、アザミウマの忌避効果がありつつも、作物(この場合はメロン)には長時間照射による悪影響は無いとされています。
まとめ
今回は、赤色防虫ネット、及び赤色LEDが何故アザミウマの忌避に効果的なのかをご説明いたしました。
各害虫が「好む・好まない」ではなく、そもそも「認知できない」という色を用いて防除するというのは、とても画期的だと思いませんか?
元々はトンネル栽培での使用が想定されていた赤色防虫ネットですが、アザミウマの防除効果が高いことが証明されてからは、ハウス栽培などの側壁の換気口周辺などにも使う農家さんが増えてきているそうです。
防虫ネットのみで全てのアザミウマなどの害虫を防除することは難しいですが、これまで悩まされていた作物への被害を大幅に減らすことが出来るでしょう。
赤色防虫ネット以外にも、無農薬でアザミウマを防除する方法を別記事でご紹介していますので、是非こちらもあわせてご覧ください。