野外に生息するダニの一種である「ツツガムシ」は、毎年数名の死者を出す「ツツガムシ病」を引き起こす原因となる虫です。
アウトドアシーズンになると野外でツツガムシに刺される人が増加するため、ツツガムシ病を予防するためにはどのような対策があるのかを知っておくと安心です。
ツツガムシの生態とツツガムシ病の実態を知ることで、少しでも多くの人が予防策をとれるよう、ツツガムシについてできるだけ詳しくまとめます。
Contents
ツツガムシってどんな虫?【画像・生態・特徴】
- 和名:ツツガムシ
- 学名:Trombiculidae
- 英名:chigger
- 階級:ダニ目ツツガムシ科
- 特徴①:刺された時のかゆみや痛みはほぼ無い
- 特徴②:春と秋に被害が多い
- 厄介な点①:ツツガムシ病リケッチアを保菌している個体がいる
- 厄介な点②:とても小さいため肉眼では見つけにくい
家の中でツツガムシに刺されることはある?
※出典:国立感染症研究所ホームページ
上の画像はツツガムシのライフサイクルを示したものですが、ツツガムシは基本山間部や河川敷などの地中で生活をし、そこに棲む昆虫の卵などを食べて生きています。
しかし、幼虫の時にたった1度だけ哺乳類の体液を吸うために地表に出ます。
その際に、人間やネズミや野鳥への刺咬被害を起こします。
この流れだけを聞くと「野外だけの話」かと思うかもしれませんが、野外でツツガムシに体液を吸われたネズミや野鳥が、人の住む家に営巣して住み着いてしまう事によって、本来は外にしかいないはずのツツガムシが室内に運び込まれてしまうことがあります。
また、キャンプなどのアウトドアを楽しんでいるときに肌や衣類にツツガムシがくっつき、そのまま帰宅して持ち込んでしまう事もあります。
特にネズミが家に棲み付いていることが原因で室内でツツガムシの被害にあうケースがあるので、ネズミが屋根裏を走る音などで存在に気が付いたら早めに対処しておきましょう。
ツツガムシの種類は?
アカツツガムシ:Leptotrombidium akamushi
ツツガムシ病を発見するきっかけとなった種類。
夏に秋田県、山形県、新潟県などの河川敷で感染することが多かったが、河川敷の埋め立てなどが進むにつれてアカツツガムシによる刺咬被害の届け出は減少してきました。
報告例がほとんどなくなってきたことからアカツツガムシは消滅したかのように思われていましたが、2008年に秋田県の少女が河川敷でアカツツガムシによる刺咬被害が15年ぶりに発生し、発見が遅れるというケースがあったので依然注意が必要。
フトゲツツガムシ:L. pallidum
新型ツツガムシ病を媒介する種類。
寒さに強く、秋~冬に孵化した個体の一部は越冬して雪解け後に活動を再開させるため、春先にも刺咬被害のピークを生じさせる。
特に東北・北陸・山陰地方の山間部に多い。
タテツツガムシ:L. scutellare
新型ツツガムシ病を媒介する種類。
温暖な地域に多く、主に西日本・九州の山間部に多い。
刺咬被害のピークは秋~冬(11月)が最も多い。
ツツガムシの大きさは?
ツツガムシの大きさは1ミリ以下と小さいため、肉眼で見つけることはほぼ不可能です。
ツツガムシの生息地と分布・活動時期
※出典:国立感染症研究所ホームページ
ツツガムシは北海道と沖縄等一部の地域を除く日本全域に分布している。
季節別でみると、5月と11月の春と秋の計二回患者発生のピークを迎えていることがわかり、特に春(5月)のピークは「東北・北陸」で患者が多くみられ、秋(11月)のピークは「九州」で多い。
前述の3つのツツガムシの種類のうち、フトゲツツガムシは寒さに強く、秋~初冬に孵化した個体がそのまま越冬して春に活動を始めるため、秋と冬の2回ピークが見られるようです。
また、11月のピークは九州で最も多くなるため、タテツツガムシが猛威を振るう時期であることがわかりますね。
ツツガムシ病(ツツガムシ・リケッチア)とは?
※出典:Orientia tsutsugamushi の電子顕微鏡写真(新潟薬科大学微生物学教室 浦上弘先生提供) – 国立感染症研究所ホームページ
ツツガムシ病の起因菌はオリエンティア・ツツガムシ(Orientia tsutsugamushi )と呼ばれています。
この菌によってツツガムシ病(ツツガムシ・リケッチア症)に感染するのですが、全てのツツガムシが細菌「リケッチア」を保菌しているわけではありません。
ツツガムシの0.1%~3%の個体がリケッチアを保菌していると言われています。
人への感染経路に関して国立感染症研究所では以下のように解説されています。
わが国でリケッチア(以下、菌)を媒介するのは、アカツツガムシ(Leptotrombidium akamushi )、タテツツガムシ(L. scutellare )、およびフトゲツツガムシ(L. pallidum )の3種であり、それぞれのダニの0.1〜3%が菌をもつ有毒ダニである。ヒトはこの有毒ダニに吸着されると感染する。吸着時間は1〜2 日で、ダニから動物への菌の移行にはおよそ6 時間以上が必要である。菌はダニからダニへ経卵感染により受け継がれ、菌をもたないダニ(無毒ダニ)が感染動物に吸着しても菌を獲得できず、有毒ダニにな らない。
ツツガムシ病に感染したネズミなどから、新たな有毒ツツガムシが発生しないのは良い点ですが、ネズミが運んできたツツガムシが有毒ツツガムシである可能性もあるので安心はできません。
吸着時間や菌の移行時間が比較的長いので、(後述しますが)野外からのツツガムシの持ち込みに関してはいくつか対策をとることができます。
ツツガムシ病の患者数推移
※出典:国立感染症研究所ホームページ
1950年以来ツツガムシ病の感染者が出ると届け出を行い、感染者数を把握し続けてきていますが、1990年頃に患者数のピークを迎え、その後減少していますが2000年に患者数がまた増加に転じています。
最近では、2016年は505人(死亡2人)も発生しており、依然死者を出しているのがわかります。
ツツガムシ病の致死率は?
※「感染症発生動向調査における「つつが虫病」と「日本紅斑熱」届出報告死亡例の検討」- 国立感染症研究所を加工して作成
1999年から2016年までのツツガムシ病の発生件数(合計7,838例)と死亡例(34例)を見ると、ツツガムシ病の致死率は約0.43%であることがわかります。
毎年300~500件のツツガムシ病の患者さんがいて、1.5~2人が死亡するという計算です。
ツツガムシの刺し口の特徴とツツガムシ病の症状
ツツガムシに刺された後に「ツツガムシ病」になってしまったかどうかの判断基準として、以下の3兆候が90%以上の患者が出る症状のため、感染の目安となります。
- 発熱(39℃以上)
- 刺し口
- 発疹(主に胸や背中などの体幹部)
ツツガムシの刺し口の特徴
※出典:国立感染症研究所ホームページ
ツツガムシ病の判断基準として、ツツガムシに刺されたかどうかがポイントになりますが、他の虫刺されとは大きく違って「特徴的な刺し口」があります。
※蚊やダニなどとの刺し口の違いと見分け方については、こちらの「ダニに刺された時の症状の見分け方|家の中の虫刺され【皮膚の画像あり】」の記事をご覧ください。
体幹部に広がる発疹もツツガムシ病の特徴
※出典:国立感染症研究所ホームページ
ツツガムシによる特徴的な刺し口と共に、体幹部に広がる発疹もツツガムシ病を見分けるポイントになります。
菌の潜伏期間が1~2週間あるため、刺し口の傷を確認し、数日後に発熱と体幹部の発疹が認められたらツツガムシ病に感染している可能性がありますので、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
野外でツツガムシに刺されないためにできる予防法と対策
1.長そで長ズボン
アウトドアを楽しみながらマダニやツツガムシによる刺咬被害を予防する一番良い方法は「長そで」「長ズボン」を着用することです。
特に、前述した地域別のツツガムシ病の被害が多い時期(春と秋)に山間部に行くときは、必ず肌の露出部分を減らすような服装を選びましょう。
2.ツツガムシに有効な忌避剤(ディート・イカリジン)を使う
※「マダニ対策、今できること」- 国立感染症研究所を加工して作成
ディートやイカリジンを有効成分とする吸血昆虫用の忌避剤はツツガムシにも効果があります。
ディートとイカリジンはいずれもツツガムシ対策として効果がありますが、上記の表のように効果の持続時間や注意事項の点で違いがあります。
ディートに比べ、イカリジンは子供にも安心して使うことができ、独特の臭いやべたつき、プラスチックや化学繊維の腐食の可能性が無い点からもおすすめです。
読者の方から記事内容について以下のようにとても丁寧にご指摘をいただきまして、誤表記部分を打ち消し、修正点をこちらに追記する形で訂正させていただきます!”イカリジンは現時点でツツガムシへの効果は承認されておらず、ディートよりも対象が少なく、蚊成虫・ブヨ・アブ・マダニの4種類の忌避のみと、防虫製品を販売する会社等の各種サイトでは注意書きがなされておりました。感染症予防に関する重要な情報ですので、記事内容の見直しをお願いしたく僭越ながらメールを送らせていただきました。
ご確認頂けましたら幸いてす”
私の方でも確認いたしまして、現時点ではイカリジンはツツガムシには適用されておらず、効果が未承認とのことでした。
大変失礼いたしました。
ディートが主成分のおすすめ虫除け剤
【液剤が飛び散らない拭くタイプ】
【手が汚れない塗るタイプ】
【吹きかけるミストタイプ】
3.着替えと入浴を早めに行う
ツツガムシ病の項目で前述しましたが、ツツガムシの皮膚への吸着期間は1~2日間あり、菌が移行するのにも6時間程度かかることから、キャンプなどに行って帰宅したらできるだけ早く着替えを行い、入浴することでツツガムシを駆除することができます。
原始的な方法ですが、とても確実な方法と言えるでしょう。
まとめ
ツツガムシの特徴と予防方法についてまとめます。
- ツツガムシはダニの仲間で人を刺す。0.1~3%がリケッチアを保菌する有毒ツツガムシ
- ツツガムシに刺される経路は「外で刺される」or「ネズミや野鳥が運んでくる」の2通り
- ツツガムシ病の致死率は0.5%で、毎年300~500人が発症し、1.5~2人が亡くなる
- 東北・北陸では5月に被害が多く、九州・関東では11月に多い
- ツツガムシ病の3兆候は「39℃以上の発熱」「特有の刺し口」「体幹部に広がる発疹」
- 予防法は「露出を減らし、イカリジンの忌避剤を使って、帰宅後すぐに着替えと入浴」
一般的には「リケッチア症」と言えば、より致死率の高いマダニの方が有名ですが、意外と知られていない「ツツガムシ・リケッチア症」についてお分かりいただけたと思います。
地域ごとにツツガムシ病の発症時期が明確なので、この特徴を押さえておくことでしっかりと予防をすることができます。
対策をしっかりととってアウトドアや山菜採りなどを楽しむようにしましょう!
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