北海道や東北で生け垣などに使われることの多い「イチイ」という植物をご存知でしょうか?
真っ赤に熟した甘みのある果実のなる、葉がつんつんしたあの木です。
イチイは、北海道や東北などでは「オンコ」と呼ばれ、北海道出身の私は登下校の最中などに、よそのお家の生け垣に植えられていた「オンコの実」をつまんで食べていました。
しかし、この「イチイ(オンコ)」は熟した果実以外の部分は全て有毒で、特に果実の中央にある種は、誤って食べてしまって死亡した例もあるほど毒性が強いのです。
今回は、誤飲によって中毒症状を引き起こすこともある「イチイ」という植物についてご紹介いたします。
イチイ(オンコ)の特徴とは?
- 和名:イチイ(一位) 別名:アララギ、オンコ アイヌ語:クネニ
- 英名:japanese Yew
- 学名:Taxus cuspidata
- 階級:イチイ科イチイ属
- 分類:常緑針葉樹
- 分布:北海道~九州
- 形態:最大で高さ20mほどになる。葉は尖っているがさほど痛くない。
- 特徴①:秋(9~10月)に真っ赤な実をつける
- 特徴②:寒い地方では育ちが良く、北海道・東北では家の生け垣や庭木として使われる
- 特徴③:熟した果実以外全て有毒
※オンコという呼び名はアイヌ語が起源と書いているところもありますが、アイヌ語では「クネニ」と呼ばれ「オンコ」という言葉はアイヌ語にはないそうです。
アイヌ語には、例えば、クネニ(ku-ne-ni 弓・になる・木)のように「~木」という意味の「~ニ」という呼び名が複数あるが、「オンコ」という語はない。つまり、「オンコ」の語源は不明である。
イチイの毒と有毒部位は?
イチイに含まれる有毒成分と有毒部位は下記の通りです。
- 有毒成分:アルカロイド系の「タキシン」(Taxine)
- 有毒部位:果実以外の、種子、樹皮、葉全て
ところで「タキシン」ってどんな毒なの?
イチイの致死量はどれくらい?
前述した通り、種子の部分の毒性は高く、最近ではイギリス人の男性がイチイを食べたことが原因による中毒症状で亡くなっています(2014年)。
イチイの致死量は、最も毒性の強い種子の場合、人間では4~5粒程度と言われています。
散歩中の犬が中毒症状を起こすこともあり、イチイの葉であれば約2g/kgが致死量となるため、小型犬の場合はイチイの枝で遊ぶだけでも中毒症状を起こしてしまう恐れがあるので注意が必要です。
家畜もイチイの生の葉を食べて中毒死するケースも少なくなく、
牛の場合は1~10g/体重(Kg)、馬の場合は0.5~2g/体重(Kg)が致死量と言われています。
イチイの中毒症状の特徴
イチイによるタキシンの中毒症状は下記の通りです。
嘔吐、悪心、めまい、腹痛、呼吸困難、筋力低下、痙攣、最悪の場合は死亡
死亡につながるような場合は、大量に摂取した場合や種子をかみくだいてしまった場合など、少量でも毒性が強まる場合があるので注意が必要です。
恐ろしいことに、死ぬ寸前まで中毒症状に気づかないことがあるほど、症状の進行がはやいのもタキシンという毒素の特徴です。
一方で、イチイは近年パクリタキセルという抗がん剤の元にもなっており、人によっては毒性のあるイチイの葉などを煎じて利尿剤などに使っている人もいるようです。(※危険なので絶対に真似しないでください)
毒も薬も表裏一体で、使い方によっては毒にも薬にもなるという事を知っておくと良いでしょう。
イチイの種をもし食べてしまったら
もし万が一、イチイの種子など毒性のある部分を食べてしまった場合は、
- 無理に吐き戻させない
- 活性炭・胃洗浄を行う
- 対症療法として、呼吸循環器系の管理を行う
という処置になるようです。
(※参考:公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報)
嘔吐症状が強い場合は輸液し、呼吸器症状が強い場合は酸素の補助的吸入が必要になるので、病院での処置が必須になります。
活性炭の投与は、薬毒物接種から1時間以内が効果的と言われているため、万が一接種してしまった場合はすぐさま病院に行くようにしましょう。
※かみ砕かずに種を丸呑みした場合は、消化されずに便に交じって排泄されることもあるようです。
まとめ
今回は、比較的よく見かける有毒な植物「イチイ(オンコ)」の特徴と対処法についてご紹介いたしました。
私が幼少期に何度も口にした木の実が、実は死ぬこともある有毒植物だったとは大人になるまで知りませんでした。これだけ重篤な症状を引き起こす植物が、簡単に子供の手が届くところに植えられていて、且つ多くの人がその毒性を知らないというのは少し怖く感じてしまいますよね。
もしご自宅のそばにイチイの木があって、お子さんやペットの散歩でそばを通るときには十分注意をしてください。
また、イチイ以外にも「住宅街や公園などで目にする有毒な赤い木の実」が沢山ありますし、口に入れなくても「触れるだけでかぶれてしまう「草木かぶれ」を起こしてしまう植物」も数多く自生しています。
アウトドアに出かける機会が多いご家庭や、様々な植物が数多く自生している里山の環境で暮らしている方は是非今一度周囲の植物を注意深く観察してみると良いかもしれません。
【イチイ以外の身近にある有毒植物についてはこちら】