ご自宅の庭木の樹皮や庭石をよく見ると灰色っぽい苔のような物がついていれば、それは「ウメノキゴケ」という地衣類の一種です。
コケといっても、一般的に見られる緑色のジメジメしたところに生えるものではなく、乾燥していてまるで樹木のかさぶたのようにパリパリとした物が多いのが特徴です。
我が家の庭木にもところどころにウメノキゴケが繁茂してきているので、実際の画像と共にウメノキゴケの特徴や防除方法等について解説していこうと思います。
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樹皮に付く白い物体「ウメノキゴケ」とは?
- 和名:ウメノキゴケ(梅の木苔)
- 学名:Parmotrema tinctorum
- 階級:ウメノキゴケ科ウメノキゴケ属
- 分類:葉状地衣類
- 分布:東北地方以南
- 形態:葉のような苔の周囲は波立ち、灰緑色をしている。
- 特徴①:樹皮以外にも岩の上などにも生える
- 特徴②:排気ガスに弱く、空気の綺麗な場所でしか生えない
- 特徴③:染料として用いられる
ウメノキゴケは、コケという名前がついていますがその生態は少々特殊で、菌類(キノコ)と藻が共生関係になっている植物です。
ウメノキゴケの大部分は菌類なのですが、そこにわずかながら共生している藻が光合成を行ったり糖類を生成することで、菌類も栄養をもらって生きているという不思議な関係なのです。
ウメノキゴケは大気汚染の指標とされている
ウメノキゴケが樹木にびっしりと生い茂る姿は、見た目としてはあまり好まれないのですが大気汚染の指標とされていて、空気がキレイなところでしか生えないと聞くと少しポジティブな存在としてとらえることができるかもしれません。
ウメノキゴケには害があるの?駆除すべき?
ウメノキゴケが付いた樹木は、その見た目から「何か病気にかかってしまっているのではないか?」「ウメノキゴケのせいで樹木が弱っていっているような気がする」と感じてしまう人が多いようです。
実際はウメノキゴケのせいで樹木が弱るのではなく、「樹木が弱ってきたからウメノキゴケがついてしまう」という順番なのです。
ウメノキゴケがついていることで樹木が枯れてしまう原因になることはありませんが、樹木の生長が衰退もしくは停滞しているという指標にもなるので、樹勢を回復させるための手を打つべきタイミングであることは間違いないでしょう。
害はないとしても見た目の悪さからどうしてもウメノキゴケを取り除きたいと考える方も少なくありませんので、続いてウメノキゴケの駆除方法についてご紹介していきましょう。
ウメノキゴケの駆除方法と効果的な農薬
ウメノキゴケの駆除方法にはいくつかあり、主なものは以下の4つです。
2.ボルドー液(銅材)を塗布
3.石灰硫黄合剤を噴霧する
4.高圧洗浄機で剥がす
1.木酢液を塗布する
ウメノキゴケは酸性に弱いので、木酢液を数回刷毛などで塗布するか、範囲が広い場合は噴霧器を使って散布すると効果的です。
塗布後しばらくすると枯れて落ちていきますが、ウメノキゴケが生えていた場所が後に残ることがあります。
また、樹木のくぼみに生えている場合は液体が入り込みにくいので、丁寧に何度か塗布する必要があります。
2.ボルドー液(銅材)を塗布する
ウメノキゴケに効果的な農薬として「Zボルドー水和剤」という、銅殺菌剤が効果的です。
Zボルドー水和剤は野菜にも適用があり、日本農林規格(JAS)の有機農産物栽培に適合する農薬で、毒性は「普通物」です。
樹木上での銅殺菌剤の効能の発現機序は販売元の日本農薬での説明は下記の通りです。
銅殺菌剤は、植物体上に薄い被膜を作り、そこから徐々に放出される銅イオンにより、作物を病原菌より保護します。銅殺菌剤はそのままでは水に溶けにくい性質を持っていますが、植物体が呼吸することにより発生する炭酸ガスや植物体の持つ有機酸が水滴に溶け出し、水滴内が酸性化(pHの低下)されると、少しずつ溶け出します。こうして溶かされた銅イオンが殺菌力を発揮するのです。 - Zボルドー水和剤
使用方法は、所定量の薬剤を決められた分量の水で薄めて散布します。
注意点としては、柑橘系やリンゴなどの樹木など特定の品種によっては薬害が起きる場合があるので、適用表を注意深くご覧になってからのご利用をおすすめいたします。
また、眼に対しての刺激性があるので使用時には眼に入らないように注意をしましょう。
3.石灰硫黄合剤を噴霧する
植物が休眠中の冬季に石灰硫黄合剤を散布するのもウメノキゴケの除去に効果的な方法です。
石灰硫黄合剤も日本農林規格(JAS)の有機農産物栽培に適合する農薬で、毒性は「普通物」です。
ただし、他の農薬と特徴の異なる点がいくつもあることと、農薬を悪用された経緯から少量タイプの商品が無いので一般家庭ではかなり扱いにくいのが難点です。
我が家では年に1回石灰硫黄合剤の散布を業者に依頼して行っているので、その時の様子と石灰硫黄合剤の特徴について以下の記事で詳しくまとめています。
4.高圧洗浄機で剥がす
物理的な力で剥がすという事も可能なのですが、ブラシやたわしなどで剥ぎ取るのでは膨大な時間がかかってしまうので、ウメノキゴケが生えている範囲が広い場合は高圧洗浄機を使うと効率的です。
ウメノキゴケは、樹勢が落ち込んでいると一度駆除してもまた次年度に生えてくることがあるので、使用期限がある農薬や木酢液を購入するのではなく、長く使える高圧洗浄機を一台用意しておくというのは長い目で見ると経済的でもあると言えるでしょう。
ウメノキゴケ対策は「樹勢を回復させること」
ウメノキゴケが生えてしまうのは、前述した通り「樹木の生長が停滞気味だから」ですので、樹勢が回復して樹皮の新陳代謝が良くなると生えてきにくくなります。
樹木活力剤や肥料などを使って樹勢の回復に努めるというのも一つの対策として有効だと言えるでしょう。
樹木に利用できる活力剤は「フローラ HB-101」か「スーパーバイネ」がおすすめです。
ウメノキゴケは染め物の染色材として使える
地衣類は利用用途も様々で、種類によっては食用になる物や薬効があるとされているものもあり、特にウメノキゴケは鮮やかな紫紅色を出す染め物の材料として使われます。
ウメノキゴケを用いた染めの手順
- 採取したウメノキゴケ(50g)の土やゴミを取り除く
- ミキサーにかけて粉末にし、ガラス瓶 or 大きめのペットボトルに入れる
- 市販のアンモニアを水で3倍に希釈し、アンモニア水を500㏄作る。
- 用意した容器にウメノキゴケとアンモニア水を入れて、定期的に撹拌しながら約1か月間かけて発酵させる
- 煮沸して染色し、一定時間煮出したら火を消して放冷する
- 硫酸銅などの薬品で焙煎して、鮮やかな色を出す
※参考:地衣類研究会 – 地衣類染色法
ウメノキゴケの染色は、アンモニアによる発酵が必要になるので比較的時間がかかりますが、過酸化水素水を使う事によって発酵を促進することで短時間で染色液を作ることができます。
注意点は、アンモニア発酵で強烈な刺激臭が発生するので、室内での煮沸染色はかなり難しいという点です。
近隣住民からの苦情が来るレベルなので、実際に染めを行う場合は十分に配慮した上で行うようにしましょう。
より細かな染色法や焙煎につかう薬品については、上記手順内で参考に利用した地衣類研究会のリンクから先をご覧ください。
また、地衣類は日本だけでも1000種類以上あることがわかっており、本当にウメノキゴケなのかを見分けるのが難しく、地衣類ハンドブックや地衣類図鑑を見てもなかなか見分けにくいのが難点です。
駆除目的ではなく、染め物の材料として利用したい方は、採取前に図鑑片手に確認すると確実でしょう。
まとめ
ウメノキゴケは植物や樹木を枯らせる原因にはなりませんが、生長が滞っている樹木に付くことがわかりました。
一時的に除去することはさほど難しくはありませんが、一度ウメノキゴケが付いた植物は状況が改善しないと再度発生してしまう事が予想されるので、樹勢を回復させるか予防的に銅殺菌剤を用いるなどする必要があります。
早急に対処が必要な案件ではないので、深刻に考えすぎずその状況に合わせた対策を取っていくことが大切になるでしょう。