ダニは「人を刺して血を吸い、痒くさせる虫」というイメージがありますが、種類によって生態も様々で、どちらかというと人に危害を加えるダニの方が少数派であることはあまり知られていません。
現在発見されているもので、5万種以上いると言われていますが、日本での実生活でみられるものは15~20種類程度です。さらにその中で私たち人間を刺したり吸血行動をとるなど直接危害を加える種類となると、ぐっと少なくなります。
日本に生息しているダニのうち,人間の血を吸う問題となる主要なダニは,科なら全体の3%,種ならわずか0.9%となる。 ー日本ダニ学会HPより
今回は、私たちの日常生活で関わる可能性のあるダニの種類や特徴について、様々な視点から解説していきます。ダニの種類を見分けることによって、この先起こりうる健康被害等についての予防に役立てることが出来るので、対策を講じる前にご一読いただければと思います。
Contents
ダニの生態や特徴について
ダニは昆虫ではなく「クモ」や「サソリ」に近い生物
ダニは足に節があるので節足動物であるのですが、昆虫ではなく鋏角亜門という「クモ」や「サソリ」の仲間です。
成虫の足は8本あり、翅(ハネ)は無いので飛びません。
もし、ダニのような小さな生物が飛び跳ねたら、それはダニではなくシラミなど他の虫である可能性が高いです。
ダニは英語で何という?
日本語では「ダニ」と一通りの言い方しかありませんが、英語では大きさで2種類の表現方法があり、
目に見えないほど小さなダニは「mite」(マイト)
マダニなどの大きいダニを「tick」(ティック)
と言います。
ダニアレルギーや家の中にいる小さなダニたちをまとめて、「house dust mites」(ハウスダストマイツ)と表現します。
ダニは肉眼で見える?
家に生息するダニの中でも最も多く見かけるのは「チリダニ」という種類で、約0.2~0.4mmという極小サイズです。
背景が黒っぽい色の場所で目を凝らせば肉眼でも見える大きさではありますが、畳の上やカーペット、布団の上などでは目視で見つけることはできないでしょう。
マダニなど、ダニの種類によっては目視が可能な大きさのものもいますが、室内で出会う可能性のあるダニの場合は、肉眼で見るというのは難しいです。
しかし、後述する「コナダニ」などの貯蔵食品を加害することのあるダニは、大繁殖してうごめくことがあるため、極小の白い物体がうごめいているのを肉眼でも確認することが出来る場合があり、不快感を与えます。
※参考:未開封のホットケーキミックス、ダニはどれくらい混入している? Yahooニュース
家の中に潜んでいる「屋内ダニ」の種類と特徴
室内に生息するダニを「屋内ダニ」と呼び、おおよそ6種類に分類することができ、その内訳は上のグラフのようになります。
- チリダニ科 :約80%
- イエササラダニ科 :約10%
- ツメダニ科 :約5%
- コナダニ科 :約2%
- ホコリダニ科 :約2%
- ニクダニ科 :約1%
1.チリダニ
屋内で見つける事の多いダニの中で最も多いのがチリダニ科のダニで、チリダニ科には「コナヒョウヒダニ」と「ヤケヒョウヒダニ」の2種類がいます。
チリダニの特徴は、
- 1年中家の中でみられる
- 刺さない
- 死骸や糞がアレルギー疾患の原因になる
- 大型ダニの餌になる
という点です。
大きさは0.2~0.4mm程度で肉眼での確認は難しく、繁殖力も旺盛で室温22~28℃・湿度60~80%の環境でどんどん増殖します。
餌となるのは、髪の毛、フケ、垢(あか)や汗の他に、ホコリ、食べカスなども食べます。つまり餌はどこにでもあるので、不潔な環境にしているとどんどん増えます。
生息場所は、カーペット、布団、ソファー、ベッドなどの布製品です。
このチリダニの厄介な点は、大型のダニの餌になるため、チリダニが増えるとさらに有害な人を刺す大型のダニが増殖してしまうという点です。
屋内のダニの駆除を行う時に一番基本になるのがこのチリダニの駆除なのです。
コナヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニの違いは成虫期間の長さや産卵数などで、一般的にヤケヒョウヒダニの方が成虫期間が長く、総産卵数も多くなる傾向にあるようです。
※参考:日革研究所HP
ヤケヒョウヒダニの死骸や糞からダニアレルギーが発症してしまうのを防ぐためには、防ダニ加工が施されたシーツや布団などの寝具の利用が効果的です。
2.イエササラダニ
チリダニに次いで多いのが、このイエササラダニ科のダニで「イエササラダニ」や「カザリヒワダニ」などがおり、全体の約10%程を占めます。
イエササラダニの全長は0.3mm程度で、少し黄色っぽい色をしているのが特徴です。一個体を肉眼で見つけるのは難しいですが、時に畳の上で大発生することがあり、粉を拭いたように見えるためとても不快な印象を与えます。
イエササラダニの特徴は、
- マンションなどの集合住宅ではあまり見ないが、築2年以内の日本家屋で多い
- 刺さない
- 大型ダニの餌になる
という点です。
新築物件での発生が多い理由としては、築2年までは「建材がまだ未乾燥」「基礎のコンクリートが乾燥するまでに1年以上かかる」等の理由から、湿度が総じて高くなる傾向がある為です。
新築で湿度が高くなった部屋で、和室を閉め切ったりすると畳の内部にカビが発生し、それを餌とするイエササラダニが大繁殖してしまうという事になります。
また、畳以外にも室内に持ち込んだ観葉植物の鉢植えなどにカビが発生し、そこにダニが湧くことも多くみられるようです。
チリダニ同様にイエササラダニも大型ダニの餌となるので、駆除をしないと刺すことのある寄生性のダニが増えることにつながってしまいますので注意しましょう。
3.ツメダニ
人に対する刺咬被害を及ぼすのがこのツメダニ科のダニです。
「ミナミツメダニ」や「フトツメダニ」等の種類がおり、全体に占める割合は僅か5%ほどです。
大きさは0.4~0.8mmほどあり大型で、チリダニやイエササラダニ、またはチャタテムシなどを餌とするため、上記のダニたちがいる場所にはツメダニもいる可能性があると考えていいでしょう。
ツメダニの特徴は、
- チリダニ、イエササラダニ、チャタテムシなどを餌とする
- 人を刺すことがあるが、積極的に人を狙わけではない
- 刺されると痒み・痛みを伴う腫れ、その他の病気への感染の危険性がある
という点です。
人を刺すのはあくまでも偶然で、吸血行動をするわけではないのですが、刺咬された場所は痒みや痛みを伴う腫れが起きる以外にも、その他の病気を媒介することがあるので注意が必要です。
生息場所は、他の小型のダニが生息するカーペットや畳などです。
湿度の上がる梅雨の時期や秋ごろに多くなるので注意が必要です。
4.コナダニ
コナダニは、カビや保存環境の悪い食品などに加害することのあるダニで、「ケナガコナダニ」という種類がおり、高温多湿な時期に発生します。
大きさは0.4mm程度で、貯蔵食品以外にも農作物や医薬品なども加害し、ものすごい繁殖力で膨大な数がうごめくので肉眼でも粉状のダニが動いていることを確認できることがあります。
コナダニの特徴は、
- 特に多湿な環境を好み、秋~冬にもみられるので低温では死なない
- 刺さない
- 貯蔵食品などを加害し、肉眼でも見ることが出来るほど増えることがある
- 大型ダニの餌になる
という点です。
荷とに対する直接的な被害よりも、農業被害や経済的被害を与えることが多いダニで、貯蔵庫や藁(ワラ)、畳などでも大繁殖することがあります。
コナダニの繁殖を予防するには、食品は密封容器(プラスチックや瓶等)にいれ、10度以下の低温保存をすることで可能となりますが、食品以外にも幅広く加害するので注意が必要でしょう。
特に、畳に発生した場合は熱処理によるせん滅が有効なので業者に依頼するのが一番確実な方法と言えるでしょう。
5.ホコリダニ
ホコリダニは、体長0.1mm程度の最も小さな種類のダニで、生態はいまだ未知数な部分の多いダニです。
果樹や農作物などを加害することが多いのですが、「ナミホコリダニ」は室内でも発見されることがあり、ハウスダストからの検出が多いのが特徴です。アレルギーなどへの関与はいまだ分かっていません。
ホコリダニの特徴は、
- 生態系はまだ未知数でアレルギーへの関与は不明
- 花や果樹、農作物を加害することが多い
- 刺さない
- 冬に多く見られることがある
という点です。
高湿度でカビを餌とする他の種類とは少し違い、冬に大発生することがあるというのも珍しく、未だわからないことが多いダニの種類です。
※注:我が家の畳と敷布団の間に設置していたダニシートから大量のホコリダニが検出されました。
6.ニクダニ
ニクダニ科には「イエニクダニ」や「サヤアシニクダニ」がおり、約0.3~0.5mm程度の大きさです。
多湿によって変性した貯蔵食品を加害することが多く、室内でもまれに見られます。
ニクダニの特徴は、
- 刺さない
- 貯蔵食品やカビを食べる
- 冬にも発生することがある
という点です。
湿度70%以上の高湿度であれば、15度程度の低温でも発生することがあり、加湿器をつけて家財等に結露から生じたカビが出来た時などに、冬場でも発生することのあるダニです。
冬場だからと言って加湿をし過ぎると、ニクダニの発生につながる可能性があるので注意が必要です。
家の外から入ってくる「屋外ダニ」の種類と特徴
屋内ダニに対して、屋外(水、土、野鳥、動物)など生育環境としているダニを「屋外ダニ」と言います。
そして、それらの屋外ダニが、鳥やネズミなど経由で屋内に迷い込んだものを「迷入種」と呼び、人を刺したり吸血したりして加害することがあります。
迷入種となりうる屋外ダニには下記の8種類があります。
- マダニ
- イエダニ
- トリサシダニ
- ワクモ
- スズメサシダニ
- シラミダニ
- ヒゼンダニ
- タカラダニ
1.マダニ
マダニは体長2.5mm~10mm(吸血時)にもなる大型のダニで、ダニ媒介性感染症を引き起こす最も代表的なダニです。
魚類以外の様々な生物に寄生し、ペットに寄生したものが家の中に持ち込まれたり、登山やアウトドアなどで野外に出た時に寄生されたりなどして問題になることがあります。
人の血を吸うことがあり、吸血されると3倍にも膨れ上がります。
マダニの吸血によるダニ媒介性感染症には、下記の3種類があります。
- 日本紅斑熱
- ライム病
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
日本で発見されたマダニの中には「SFTSウイルス」を持った個体が多数発見されており、注意が必要です。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に感染した場合の症状は、38℃以上の高熱、下痢、嘔吐、場合によっては死に至る事があります。
2.イエダニ
イエダニは、野鳥やネズミに寄生して室内に入り込むことがあり、迷入種の中でも最も被害が多いのがこのイエダニです。
イエダニの大きさは0.6~0.8mm程で比較的大きく、肉眼で確認することが可能です。
イエダニは、特に屋内に棲み付くことのあるクマネズミが媒介者として知られ、人間に寄生することはありませんが、屋根裏などでクマネズミの巣や死骸からイエダニが大発生し、宿主であるクマネズミがいなくなったことによって、2次的に人間を刺すことがあります。
5月~9月に多く発生し、お腹や内もも、腕の内側など柔らかくて太い血管の通っている場所を狙って吸血します。
吸血された場所は、激しいかゆみと痛みを伴い、感染症を引き起こす恐れもあります。
イエダニ自体は殺虫剤で駆除することが可能ですが、一番の問題は媒介者であるネズミがいることですので、イエダニの吸血被害に遭った場合はネズミの駆除を行うことが先決です。
イエダニについてはこちら。
ネズミの駆除方法については、こちらの「【ネズミ駆除】家のネズミを退治するための対策情報まとめ」の記事をご覧ください。
3.その他の屋外ダニ
マダニやイエダニ以外で迷入種となるダニの中で、「ワクモ」「トリサシダニ」「スズメサシダニ」は鳥や鳥の巣が発生源になるダニで、人間の血を吸う吸血種です。
ツバメやスズメ、ムクドリなどの野鳥以外にも、トリサシダニは鶏舎のニワトリでも大発生することがあります。
野鳥の場合は、営巣する巣に鳥がいるうちは鳥に寄生するのでいいのですが、巣立ちを迎えて寄生する鳥が巣からいなくなってしまった場合に、新たな寄生先を探して移動し、人間を刺します。そのため、巣立った後のツバメの巣などは注意してできるだけ早めに取り除くようにしましょう。
また、シラミダニは昆虫に寄生する種類のダニですが、人間に移行すると激しいかゆみを引き起こすダニです。
ヒゼンダニは、人間の皮膚に寄生し、角質層に穴をあけてそこで繁殖します。最終的には疥癬(かいせん)症を引き起こし、人から人へ接触感染でうつる危険性があります。
タカラダニは、コンクリートや家の外壁などで見かけることがある真っ赤な色をしたダニです。吸血行動はせず、人を刺すことはしないので見た目が不気味な以外は特に害がないダニなのですが、誤って潰してしまうと赤い体液が付着し、アレルギーの原因になることがわかっているので潰さないようにしましょう。
タカラダニについてのより詳しい解説は、こちらの「赤い小さい虫「タカラダニ」の生態と駆除方法まとめ」をご覧ください。
日常生活で特に注意すべき4種類のダニ
普段暮らしていて特に被害が多く挙げられるのは下記の4種類です。
- チリダニ:アレルギーの原因になる。ツメダニの餌になる
- コナダニ:貯蔵食品などで大発生することがある。ツメダニの餌になる
- ツメダニ:人を刺す。チリダニやコナダニがいる限り増える
- イエダニ:人を刺し、血を吸う。ネズミを駆除しない限り増える
ツメダニは、チリダニやコナダニ以外にも「チャタテムシ」という1~2mmの白いダニに似た虫も餌にするため、チャタテムシがいる場合でもツメダニが増える可能性があります。
こちらがダニと間違いやすいチャタテムシ↓
チャタテムシの生態や駆除方法は下記の関連記事をご覧ください。
【関連記事】>>畳に白い小さい虫!チャタテムシの生態を知れば駆除ができる!
上記の関係性から、室内でツメダニに刺された場合は、チリダニやコナダニが既にいると考えてほぼ間違いありません。ダニによる刺咬被害も嫌ですが、小さなお子さんがいる家庭などではチリダニ類によるアレルギー被害も気になります。
気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのおよそ8割が、ダニが原因によるものと言われているのでしっかりとした対策を取るようにしましょう。
ダニの駆除は、コインランドリーの高温乾燥機にかけるのが有効なのですが、ソファーやベッドマットレス等、乾燥機に入らない大きいものについてはダニシートが有効です。
おすすめのダニシートをランキング形式でご紹介していますので、下記の記事もあわせてご覧ください。
【関連記事】>>>ダニシートおすすめランキングBEST5【効果・コスパ・安全性で比較】
まとめ
様々な理由から日常生活に入り込んでくる可能性のあるダニの種類をまとめました。
最後に各ダニの主な特徴(害)を表にまとめてみます。
刺す | 吸血 | 寄生 | アレルギー | |
チリダニ | 〇 | |||
イエササラダニ | △ | |||
ツメダニ | 〇 | |||
コナダニ | △ | |||
ホコリダニ | ? | |||
ニクダニ | △ | |||
マダニ | 〇 | |||
イエダニ | 〇 | |||
トリサシダニ | 〇 | |||
ワクモ | 〇 | |||
スズメサシダニ | 〇 | |||
シラミダニ | 〇 | |||
ヒゼンダニ | 〇 | |||
タカラダニ | 〇 |
この表では、食害や経済的被害などは除き、刺咬・吸血・寄生・アレルギーの4つについて分類しています。
この表を見ると吸血ダニは屋外ダニがほとんどで、屋内ダニで刺咬被害があるのはツメダニだけであることが分かります。
ただし、前述のようにチリダニ類は大型のダニの餌になるので、刺咬被害がないからと言って放置していると、ツメダニやその他のダニが増えてしまいますので注意が必要です。
ダニの被害にあったらできるだけ早く対策を取るようにしましょう!