アブラナ科の植物を好んで食害することで知られている「コナガ」という小さい蛾をご存知でしょうか?
キャベツやブロッコリーなどの天敵として世界中で重要害虫とされていて、最も薬剤抵抗性のある害虫として知られています。
今回は、このとてつもなく厄介な害虫「コナガ」の生態と防除法をご紹介します!
でも弱点もあるから、今回は生態を含めて学んでいくぞい!
Contents
コナガとはどんな害虫?
- 和名:コナガ (小菜蛾)
- 学名:Plutella xylostella
- 階級:チョウ目コナガ科コナガ属
- 生息範囲:日本全国(西アジア原産)
- 生息場所:アブラナ科の野菜を好んで食害
- 活動時期:春~秋の発生が多いが、冬でも緩やかに成長する
- 体長:成虫は6mm(翅を広げると12mm程度)、幼虫は10mm
- 寿命:羽化した成虫の寿命は1~2週間
- 特徴①:年に5回~10回発生する(暖かい土地だと発生回数が多い)
- 特徴②:雄成虫は黒褐色系。背中に菱形の模様があり「Diamondback moth」の由来になっている
- 特徴③:農薬のBT剤に一番最初に抵抗性を示した昆虫
- 好物:アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー、カブ、カリフラワー、クレソン等)
- 弱点:性フェロモン剤が有効
- 厄介な点①:極めて薬剤抵抗性が高く、同一薬剤を続けて使用できない
- 厄介な点②:繁殖力が旺盛
コナガの特徴とは?
※コナガの生物学的分布図
1.気流に乗って長距離移動する
コナガは、地中海(西アジア)原産の外来害虫と言われており、ヨーロッパでは昔からコナガが大移動をすることが知られていました。
気流に乗って1000キロ以上も大移動をするというコナガは、その行動範囲の広さから世界中で猛威を振るうようになったといわれています。
上の地図を見ると、赤く塗りつぶされているのがコナガが生息する範囲です。これだけの範囲にまで生息域を拡大しているのは、まさに大害虫であるといえるでしょう。
2.寒さに弱い
コナガは寒さに弱いため北海道と東北では越冬できないといわれています。
その癖、北海道や東北に向けて大移動をして飛来するため、春先の比較的早い段階でも北海道でコナガを確認することが出来ます。
寒さに弱いコナガですが、短時間であればー15℃程度までは耐えられるとされており、0℃前後の気温が長期間続くと生きていけないことが分かっています。
そのため、冬の期間が長く、積雪が多い地方(根雪期間が2か月程度ある地方)では、越冬できず死んでしまいます。
3.ほとんどの薬剤に抵抗性を持っている
コナガが最も恐れられている、厄介な特性が「薬剤抵抗性の高さ」です。
現状でよく使われる薬剤成分である「有機リン」「カーバメート」「合成ピレスロイド」「ネライストキシン」「BT]「IGR」「混合剤」のすべてに対して、コナガは抵抗性を持っているとされています。
そのため、同一系統の薬剤を連用しないようにすることがとても大切になってきます。
他の幼虫とコナガの幼虫の見分け方
アブラナ科のキャベツなどを食害する虫(幼虫)には、コナガ以外にも「モンシロチョウ(青虫)」や「ヨトウガ(ヨトウムシ)」「ハスモンヨトウ」「カブラハバチ」などいくつかの種類がいます。
素人目には、作物に付いているイモムシがどの虫の幼虫なのか見分けるのが難しいですよね。
それぞれの昆虫によって防除方法も異なるため、しっかりと原因害虫の特定をしたいところですが、どのようにしてコナガの幼虫かどうかを見分ければよいのでしょうか?
コナガの幼虫には下記のような特徴があります。
- コナガの幼虫は、他の幼虫に比べ小さく10mm程度しかない
- シャクトリムシのようには歩かない
- 触ると驚いて素早く後ずさりをする
- 葉から簡単に落ち、その時に白い糸を吐く
上記のような特徴があれば、コナガの幼虫であると推測できます。
①の大きさに関しては、その他の昆虫の若齢幼虫であることもあるので確定はできませんが、触った後に素早く後ずさりをしたり、糸を吐いて抵抗するのはコナガ特有の特徴です。
コナガが食害する作物の種類とは?
コナガはアブラナ科の作物や植物が大好物で、それ以外の作物には見向きもしません。
それは、アブラナ科の植物に含まれる「からし油成分」がコナガの産卵に必要で、コナガの成虫はこの成分のある作物にしか産卵しません。
コナガの食害を受けやすいアブラナ科の作物は以下の通りです。
カブ・カリフラワー・キャベツ・コマツナ・ダイコン・チンゲンサイ・ハクサイ・ブロッコリー・ミズナ・メキャベツ・ルッコラ・クレソン・高菜・菜花
アブラナ科の作物の中でも好みがあるようで、畑に大根しかない場合は大根の葉を食害しますが、隣にキャベツがあると大根にはほとんど寄りつかずにキャベツを食害します。
コナガの食害を受けるとどうなる?
コナガの食害が進行すると、作物には多大な影響を与えてしまいます。
特に、コナガの幼虫は柔らかい新芽部分を食害するので、新芽部分をやられたキャベツなどの結球作物は結球できなくなり、商品価値がなくなってしまいます。
また、光合成が阻害され作物の成長がとまってしまうだけでなく、食害部分が次の成虫の産卵場所になりやすいために、さらなる被害を呼び込んでしまう可能性があります。
コナガの防除方法(農薬以外)
1.作物周囲の雑草を駆除する
コナガの防除で忘れてはならないのが、作物周囲(圃場内)の雑草の駆除です。
雑草にも「ナズナ」「タネツケバナ」「イヌガラシ」などのアブラナ科の植物があり、たとえ作物自体に防除法を施しても、周囲の雑草でコナガが発生してしまっては本末転倒です。
しっかりと周囲の雑草も駆除をしてしまいましょう。
除草に関しては「雑草を生えなくする9つの方法」の記事をご覧ください。
2.シルバーマルチを使う
コナガは、アブラムシやアザミウマ同様に、シルバーマルチによる忌避が効果的という報告があります(島根県農試 1989)
シルバーマルチを使用したウネでの、コナガの産卵数が顕著に低かったことから、シルバーマルチで作物の株元を覆うというのは一つ効果的な方法でしょう。
ただし、キャベツなど成長するにつれて株が大きくなる作物の場合は、作物に隠れて反射面が次第に小さくなってしまい、効果が薄れてしまうという欠点があります。
シルバーマルチをつかった忌避は、作物の種類によって向き不向きがあるといえるでしょう。
3.作物をネットで覆って飛来を防ぐ
コナガの発生は、どこからか自然に湧いて起きるのではなく、必ずどこからか飛来して作物に付くために起こります。
そのため、外部からの飛来自体を防ぐことで被害を食い止めるという方法もあります。
アザミウマに対する防除方法でもご紹介した「防虫ネット」がその一つです。
作物を防虫ネットでしっかり覆う事で、コナガの食害を顕著に減らすことが出来るでしょう。
コナガに関しては、アザミウマの防除法で効果的だった赤色防虫ネットが、白色防虫ネットに比べて防除の度合いが優れているかはわかっていませんが、
コナガの成虫の体長が6mm程度であることから、通常の白色防虫ネット(0.4mm)などであれば、網の目の間を通り抜けることは無いでしょう。
4.散水する
実はコナガは、水滴でも溺死するほど水に弱いという弱点があります。
雨が降るとその衝撃で葉から落ちて、水たまりに入ると死んでしまうのです。
定期的にスプリンクラーや手動で夜2回(各15分)散水することで、約8割の幼虫を駆除できたという報告もあるほどで(土生、1993)、散水はかなり効果的であるといえるでしょう。
水耕栽培などの作物の栽培方法によっては、散水による駆除が適さない場合もありますので、注意しましょう。
5.フェロモントラップを使う
コナガの雄は、雌の放つ性フェロモンにおびき寄せられる習性があるので、フェロモントラップが有効です。
フェロモントラップを使用するメリットは、
- 処理が簡単ですぐできる
- 効果が長く続く(3か月程度)
- 作物に影響がない
- 抵抗性が発達しにくい
- 殺虫剤の散布回数が減る
- 殺虫剤の散布回数が減るので、薬剤抵抗性が発達しにくい
一方で、デメリットは
- 広い土地の一区画だけ使っても意味がない(広範囲を一度に行う方が良い)
- オスしか捕まえられない
等の点があげられるでしょう。
コナガのフェロモンの有効範囲は比較的狭く、風下側でもせいぜい5メートルと言われています。
コナガの体長が1cmに満たない事を考えると、5mの臭いを嗅ぎつけるというのは凄い事ですが、圃場が広い場合は、ほんの1区画だけフェロモントラップを利用しても駆除効果はさほど見込めないでしょう。
圃場の広さに合わせて、使用するフェロモントラップの量を調整することが大切ですね。
フェロモントラップの購入は、下記のサイトで購入できます。
6.天敵を使う
アブラムシやアザミウマ同様に、天敵による生物学的防除方法が効果的です。
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基本的には上記の2種同様に、寄生バチでの防除を行う場合が多いのですが、コナガの幼虫の場合は「ゴミムシ」や「クモ」などの、作物をよじ登って幼虫を捕食する肉食性の昆虫が天敵として存在します。
下記の研究によると「ウヅキコモリグモ・オオアトボシアオゴミムシ・キボシアオゴミムシ」などが捕食数の多い天敵として紹介されています。
コナガを捕食する寄生バチには「コナガサムライコマユバチ」や「メアカタマゴバチ」がいます。
作物が害虫に食害されたときに作物自身が発する独特なにおい「植食者誘導性植物揮発性物質(Herbivore induced plant volatiles:HIPV)」を発するのですが、このHIPVが害虫の天敵をおびき寄せる「野菜のSOS」の働きを持つことが分かっています。
現在はこのHIPVを「天敵誘引剤」として研究・開発されているようですが、まだ市販にまでは至っていません(2017年)。
現状でできることとしては、殺菌と称した無計画な消毒や、やみくもな農薬の散布を行わず、必要最低限の対策で効果を得るように心がけるというのが、せめてもの対策でしょう。
7.バキュームで吸い取る
私が特におすすめしたいのは「バキュームで吸い取る」という方法です。
1992年に発表された論文で、コナガの吸引除去に関する効果を検討したデータが発表されていて、どの程度コナガの成虫の密集度を減らすことが出来るか示されています。
この研究は、ツケナ類などの軟弱野菜の害虫防除法として、使用可能な防除法の開発を目的としてクレソン畑での「バキュームを利用した吸引除去法」を試したとされています。
効果の程は、予想外に高く一回の吸引除去で成虫が半減することが分かったとされており、5~6回の掃除で成虫数を我慢できるレベルまで減少させることが出来るという事が分かりました。
しかし、問題点としては一番効果的だった型の重量が20kgオーバーとあまりに重く、長時間の利用が難しかったこと、またハンディータイプに変更すると吸引力が落ちてしまう事が難点として挙げられていました。
当時の研究から25年余り経過した現在では、ハンディータイプの軽量バキュームでも吸引力の強いものが販売されているので、ハウス内でのコナガの成虫が増殖した際に効果的に使用することが可能です。
おすすめのバキュームは、「HG-HB30BV」です。
落ち葉を集めるブロアーとバキュームの両方として使えるので、ハウス内に発生したコナガの成虫をパワフルに吸引することが可能です。
肩掛けストラップ付で、5キロ弱の重量なので長時間の利用も可能です。
また、エンジン式なので電源不要で延長コードが足に絡まる心配もないので、狭いハウス内でも使いやすいのが特徴です。
落葉の時期の落ち葉にももちろん使えますし、農作業以外にも活躍してくれるので、1台あれば作業効率も大幅にUPします。
全てのコナガの成虫を吸引駆除するのは難しいので、その他の防除法との併用が必要ですが、1時間のハウス内吸引で成虫数が半減することを考えるとあって損は無いのではないでしょうか。
まとめ
今回は、コナガの生態と農薬を使わない防除方法をご紹介しました。
あえて農薬の情報をご紹介しなかった理由としては、コナガが特に薬物抵抗性の獲得が早い害虫であること、そしてアブラナ科の作物全般を食害するという加害範囲の広さから、農薬の散布方法が多岐に渡るという理由からです。
実際には、旺盛な繁殖力と広範囲への移動をするコナガの対策としては、農薬を使った防除が必要であることは否めません。
しかし、農薬散布以前に、今回ご紹介した様々な防除方法を行う事で、農薬の散布量を減らすことにつながり、最終的にコナガの薬剤抵抗性の発達を抑制することにつながります。
これらの農薬以外の対策を遂行してから、粒剤などでのコナガの全体数を減らし、その後に選択性のある薬剤で駆除をすれば、ある程度の防除は可能になるでしょう。
農薬の散布回数を減らすのは食物の安全性の面のみならず、長期的に見たコナガ防除の方針からしても大切な視点であると思います。
是非参考にしてみてください。
参考)
「コナガ」おもしろ生態とかしこい防ぎ方
害虫の吸引除去による防除法
農研機構HP